桐生くんには敵いません!

 一体、なんなのこの人?
 チラリと視線だけ向けたら、もう前を向いている桐生くんの横顔は天使のようだ。
 う、うん、気のせいよね?
 桐生くんみたいなキレイな人が、毒なんて吐くわけがないもの!
 さっきのは、文句も言えない私への同情だったのかもしれない、そう思おうとしたというのに――。
 事件はその日の放課後に起きた。

「福ちゃん、マジでゴメンねえ」

 顔の前で手を合わせ、ペロッと舌を出して可愛く首をかしげたマナちゃん。
 ごめんね、と言う割には全然悪いと思ってはいない模様。
 小五の時から通算何度目かの「掃除代わって」だ。
「いーよ、特に用事ないし」と笑顔で安請け合いしてしまうのは、マナちゃんの後ろに群がる取り巻き女子の圧力に耐えきれないからだ。
 イジめられてるわけではない、ただ存在を軽んじられてるだけのこと。
 ちょいポッチャリで、取り立てて人に誇れるような特技のなに一つない私だから仕方のないこと。

「んじゃ、ありがと、大福ちゃん」
「ちょ、聞こえるって」

 クスクス笑いながらランドセルを背負い、連れ立って帰っていく彼女らが教室から遠ざかってから初めて私はアッカンベエと舌を出した。