鈴村君の裏の顔


目が覚めた瞬間、
胸の奥が嫌な音を立てた。

……最悪だ。

夢だと分かっているのに、
心臓の鼓動だけが現実を主張してくる。

隼人の隣で笑う望愛。
当たり前みたいに寄り添う姿。

――奪われる。

その感覚が、
まだ身体に残っていた。

今日は、運よくオフの日。

だからこそ、
じっとしていられなかった。

俺はベッドから起き上がると、
迷いなくスマホを手に取る。

画面に表示された名前。

望愛

一瞬だけ、指が止まる。

……重いって思われたら?

……急すぎるって、引かれたら?



そんな迷いは、
次の瞬間には消えていた。

今動かなきゃ、
本当に全部失う気がした。

《望愛、おはよう。》
《今日、大学何時頃終わる?》

送信。

わぁー送ってしまった。
心臓が、また跳ねる。

既読がつくまでの数秒が、
やけに長い。


《優希君おはよう。》
《今日は4限までだから、》
《16時半くらいかな。》


返ってきたメッセージに、
思わず息を吐いた。

……よし。

俺は、決意をした。

望愛の大学先に行く。

望愛には大学に行く事は言わない。
“偶然”を装うなんて、自分でもずるいと思う。

いやでも、さすがに偶然とか
無理がありすぎるかな。


でも……それでもいい。
今日、望愛に会いたい。
会って伝えたい……俺の気持ち。



今日は、俺以外はみんな仕事で不在。
家を出る時間まで俺はなかなか出来なかった
ゲームに打ち込んだ。


そして、時間になり電車に揺られながら
目的である望愛が通っている大学に
向かった。



大学の正門付近。


学生達が次々と流れ出てくる中、
キャップを深めに被り、
マスクで顔を隠して俺は立つ。


それでも、
心臓は落ち着かなかった。

望愛……まだかな。

人混みの中から、探してしまう。

無意識に、あの愛おしい姿を……。

早く会いたい……。

そう思っていたら

――いた!

周りの誰よりも、特別な君が
一番キラキラして見える。

そして……
一瞬で、視界が狭くなる。

望愛……。

その隣には、見知らぬ女の子。

……誰?

俺は小さく首を傾げる。

きっと友達、だよな。

そう思っていると、
望愛がこちらに気付いた。

一瞬、目が合う。
やばい……好きすぎて暴走しそう。

そして俺は……

「望愛ー!」

思わず、望愛の名前を大きな
声で呼んでいた。

呼んでから、少し後悔する。

ヤバい……目立つ。

でも、ヤバいと思ってからでは
もうすでに遅かった。

望愛は一瞬固まり、
次の瞬間、明らかに焦った顔になっていた。



隣の女の子が、
望愛の顔をじっと見ている。

そして、俺を二度見して目を大きく
開いた。