鈴村君の裏の顔



*隼人side*


正直……
今日は疲れてるはずだった。

収録は長かったし、
カメラの前では完璧な“王子”を演じきった。


なのに……

リビングに足を踏み入れた瞬間、
全部どうでもよくなった。


望愛がいたからだ。


キッチンに立つその後ろ姿。
長い髪が後ろで結ってゆるく揺れている。
そしてエプロンの紐が背中で結ばれているた。


ただそれだけで、
胸の奥がざわつく。

……ほんと、やべぇ。

俺はきっと……
初めて会った時から、
心を奪われてたんだな。


媚びない。
近づきすぎない。
なのに、自然と空気に溶け込む。

”家政婦”って立場のくせに、
この寮の誰よりも“普通”で、
だからこそ浮いてる。

隆二たちの軽い会話を聞き流しながら、
俺の視線は、
無意識に望愛を目で追っていた。


……見るな。

見てどうすんだ……。

だけど……
無意識にやはり目で追ってしまう。

頭では分かってる。


こいつは仕事でここにいるだけ。
俺達雇い主で望愛は家政婦。


それ以上でも、
それ以下でもない
……はずだった。



「望愛ちゃん!」

優希の声が聞こえた瞬間、
胸の奥が一段、重くなる。

またかよ……。


あいつは優しくて、
距離感が上手くて、
誰にでも自然に入り込む。

望愛のそばに立つ優希を見て、
俺は奥歯を噛みしめた。

距離が、近ぇんだよ。

皿を受け取る仕草も、
声のトーンも、
全部“ちょうどいい”。

触れないくせに、
ちゃんと安心させる距離。


それが、
一番ムカつく。

俺は、そんな器用じゃねぇ。

俺がやったら、強引になる。



そんな事をかんがえている俺は、
翔太の視線に気付いた。

「おい、隼人。」


短く呼ばれただけで、
何を言われるか分かる。



「お前……」
「顔、分かりやすいなあ。」



チッ、と舌打ちしそうになる。



「うるせぇ。」


「否定しないんだ(笑)。」

翔太の声は静かで、
だから余計に刺さる。

独占欲――
その言葉を聞いた瞬間、
胸の奥に、図星が落ちた。


……自覚してるし……

もう、とっくに……。

望愛が笑えば気になるし、
優希と話してればイラつく。

俺の前では緊張してるくせに、
優希には少し柔らかい顔をするのも
正直言って、気に食わねぇ。


なんでだよ。

俺の方が先に好きになったわけじゃない。
でも……俺は、
簡単に譲 諦めるほど軽くもない。


望愛が、
優希に向けて小さく笑った。

その瞬間、
胸の奥がぎゅっと締め付けられる。

……そっち見るな。

そんな権利、
俺にはまだない。

それが、
一番腹立たしい。

名前を呼びかけそうになって、
寸前で止めた。


今、呼んだら――
また苛立ちをぶつけてしまうかも
しれない。
嫉妬と言うのはほんとうに厄介な
感情だと思った。



仕事だろうが、立場だろうが、
関係ねぇ。

望愛が、
ここにいる限り。

俺は、
もう“王子”ではいられない。

優希に向けるその穏やかな視線も、
いつか全部――

俺の方に向けさせる。

そう、静かに決めた。




隼人 side 終わり