泡のような世界で君と恋をする

海は、静かだった。

戦いの痕跡も、追撃の気配もない。
ただ淡く揺れる光の中で、人魚たちが円を描くように泳いでいる。

「……帰ってきたんだ」

私は、ようやくそう呟いた。
胸の奥に溜め込んでいた緊張が、ゆっくりとほどけていく。

ルシアの気配が、すぐ隣にある。
それだけで、足元が崩れ落ちそうだった心が、かろうじて立っていられた。

人魚たちは、私を見ない。
正確には――見てはいるが、視線を合わせない。

守られた存在。
同時に、触れてはいけない異物。

(……やっぱり、ここは人魚の国なんだ)

私がそう思った、その時だった。