第二章
喫茶店は駅から少し離れた場所にあった。
古い木の扉を押すと、コーヒーの苦い匂いが広がった。
「ここ、まだあったんだな」
彼が言う。
「なくならないよ、簡単には」
私が答えると、彼は頷いた。
窓際の席に座る。
カップの縁から湯気が立ちのぼる。
私は彼を見ないようにしていた。
見れば、きっと思い出してしまうから。
「元気だった?」
彼が聞いた。
「元気って言葉、便利だね」
「そうか」
彼は少しだけ眉を動かした。
「君は変わった?」
私は問い返した。
「変わったよ」
彼は即答した。
「どこが?」
「全部」
その答えがあまりに乱暴で、私は笑いそうになった。
でも笑えなかった。
恋人だった頃、彼はこんな言い方をしなかった。
もっと遠回りで、もっと不器用だった。
私は気づく。
彼は変わったのではない。
変わらざるを得なかったのだ。
「……私たちも、そうだね」
私が呟くと、彼はカップを置いた。
「まだ、俺たちって言うんだな」
その言葉が胸に刺さった。
