冬の匂いを覚えている

第一章


駅前のロータリーには、冬の匂いが沈んでいた。


それは雪ではなく、凍りかけたアスファルトと、遠くの海の湿り気が混ざったような匂いだった。


私はその匂いを吸い込むたびに、なぜか過去を思い出す。
過去というほど大げさではない。







たった数年前の、しかし確実に戻らない時間。

改札を抜けると、人の流れが私を押し流す。



コートの袖口から指先が冷え、私は無意識に手を握りしめた。





「久しぶり」




声がした。


振り返ると、そこに立っていたのは、彼だった。


少し伸びた髪。
変わらない目。





変わってしまった空気。

私は一瞬、言葉を失った。


彼がここにいることは分かっていたはずなのに、現実の輪郭が追いつかない。







「……久しぶり」



私の声は、自分でも驚くほど小さかった。




彼は笑った。
笑ったけれど、その笑いは昔のように無邪気ではなかった。


「寒いな」


「冬だから」


「そうだったな」






会話はそれだけで途切れる。



沈黙が二人の間に落ちた。






私は思った。


恋愛というのは、言葉が多いものだと。

しかし本当は、言葉が減っていく過程こそが恋愛なのかもしれない。




彼の横顔を見ながら、私は確信していた。


この再会は、偶然ではない。









そして、きっと優しい結末でもない。