両手でも抱えきれない愛で贖えるものならば

私の大してうまくないピアノでも、及川くんは、

「三井さんのピアノ、凄く癒やされる⋯⋯」

心の底からそう言ってくれていると判って、とても嬉しかった。


しかし、いま目の前にいる、この名前も知らない男は、人の演奏を貶しておいて、私を気に入っただの、俺の女になれだの⋯⋯どうかしている。

ルックスがいいというだけで、それほど自信満々になれるのかと呆れてしまう。

及川は、この男のような華やかさはないものの、私は彼の顔が大好きだ。

言わずもがな、好きなのは顔だけではないが。

「俺、欲しいものは何が何でも手に入れないと気が済まないんだよな」

傲慢な男は言う。

「私はものじゃありませんから」

「だとしても、同じことだ。最初に言っておくよ。俺はアンタを諦めるつもりはない」

そう言うと、何か走り書きして私に押し付けて、さっさと去っていく。