もう一回言って

蓮の奴…母さんが病気で死んだときは、ギャーギャー泣き叫んでいたくせに、今じゃ叔母さんとの海外暮らしを堪能している。
相変わらず中身はうるさいままみたいだけどな。
「翼さんから聞いたよー!お兄ちゃん、この人と二人で暮らしてんでしょ?」
翼さんというのは蓮を引き取った叔母さんの名前だ。
この人って…未桜のことまだ…。
「いい加減、この人って言うのやめろよ。未桜だって言ってんだろ」
「…やだ」
俺が未桜のことについて触れた途端、蓮の周りの空気が重くなる。
未桜と蓮の間に何があったか‥それは本当に何もない。
ただ、蓮が一方的に未桜のことを嫌っているだけだ。俺の幼馴染であり、蓮にとっても幼馴染のはずなのに、未桜がどれだけ蓮に優しくしようと、どんな態度を取ろうと頑なに未桜の名前を呼ばず、未桜と口を利かなかった。
さすがにこの年になって口は利くようになったけど、名前を呼ぶことはしてなく、この人呼ばわりしている。
未桜のことを傷つけるのは誰であっても許さないけど、妹のことを傷つけるわけにもいかないから、仕方なく我慢している。
「涼ちゃん……。私はいいから。蓮ちゃん、ごめんね。私…」
「”ちゃん”って呼ばないで!それと、ごめんばっかでうるさい。なんでお兄ちゃんの幼馴染がこの人なの?」
いきなり未桜に向かって怒鳴り、乱暴に靴を脱いで家に上がる。
「おい、蓮!他人(ひと)の家だぞ。礼儀はしっかりしろ。怒鳴るな。そんなに言うことないだろ」
未桜を庇うように前に出て、蓮を見る。
蓮は久しぶりに会った俺にこれほど怒られると思っていなかったのか、目を丸くして口を少し開けたまま固まった。
「……お兄ちゃんって昔からそうだよね。妹の私じゃなくて、幼馴染でよく知ってるとはいえ所詮は他人のこの人の味方にばっかりついてさ。私はお兄ちゃん以外、味方もいないのに。お母さんは他人に失礼なこと言わないで。って言って綺麗ごとばっかり並べて、お父さんはいつも仕事仕事で家族のこと放っておいて。友達だって私はろくにいないのに」
「昔からじゃない。それに、蓮が未桜に悪口を言うからだろ」
一歩踏み出す。
未桜が俺の背中を掴んで、もういい。というように首を振ったけど、俺は止められなかった。