3 すれ違いと交差
追いかけるのではなく、共に落ちるウサギの穴は、どこか切なくて、苦しくて。握られている腕が異様に熱を持っている。
『どうして私なの! 何で私がこんなことをしなきゃならないの』
『黒ウサギ、ごめんなさい、ごめんなさい黒ウサギ』
『私は貴方が好き。黒ウサギ、貴方が好きです』
『私は――』
穴に入ると毎回見る過去。それは時計の記憶であり、十三代目アリスの過去。だけど、今見ている記憶には、把握しきれない程の歴史と想いが溢れている。過ぎ去って枯れた薔薇が、ふわりと前を通り過ぎていく。落ちてきた小さな鍵を掴もうとしても、包んだ両手に留まることはなかった。シルクハットがチラリと見えて、そこにはお茶会の記憶がカップに注がれるように流れている。お茶会を楽しむいつかのアリス達の記憶は、誰かの涙がぼかしていく。時計は、彼女たちの想いをも鮮明に伝えてくる。
アリスの使命に嘆く少女。ひたすら謝り悲しむ少女。想いに気付き、愛を伝える少女。
そして。
『皆が、皆が大好きよ』
仲間達を心から愛した少女、一代目アリス。
彼女達は皆歴代のアリス達。私と同じ使命を背負った女の子。彼女達の記憶の欠片が、想いが頭に入り込んでくる。 いつもは霧がかかっているようにハッキリとしないのに、今回だけは鮮明に見える。
黒ウサギに、触れているから?
思い出してみれば、鮮明になった記憶を見るのは、毎回黒ウサギや白ウサギに接触している時だった。
黒ウサギは、見えてないんだよね。
見えていればいいのに。伝わればいいのに。どうして肝心なことはこんなにも伝わらないんだろう。
今は見えない彼に問いかける。
ねぇ黒ウサギ、どうしたら、貴方を大切に想う気持ちは伝わるの?
視界が光に覆われて、切ない記憶も想いも全て光の中に消えていく。あるのはただ、闇に覆われた世界と、黒ウサギの存在だけ。
「黒ウサギっ!」
穴から出ても背中を向け足早に進む黒ウサギ。腕が痛い。
静寂を際立たせるかのように、草を踏む足の音が薄暗い森にやけに響く。ここがどこかも、もう分からない。私の声が届いたのか、黒ウサギは進むのを止めピタリと止まる。黒い髪は靡くことも、動くこともなく、ただ静止し続ける。振り向いてくれない黒ウサギに、私はただ黙ることしか出来ない。伝えたいことは沢山あるのに、こんな時ばかり上手く声が出せない。それでも、抑えきれない想いが強くて込み上げる言葉を吐き出す。
「黒ウサギ! 私は貴方を、皆を、世界を救いたいの! でも、私一人じゃ力が足りない。呪いを解くには皆の力だけじゃない! 黒ウサギの力も必要なの!」
追いかけるのではなく、共に落ちるウサギの穴は、どこか切なくて、苦しくて。握られている腕が異様に熱を持っている。
『どうして私なの! 何で私がこんなことをしなきゃならないの』
『黒ウサギ、ごめんなさい、ごめんなさい黒ウサギ』
『私は貴方が好き。黒ウサギ、貴方が好きです』
『私は――』
穴に入ると毎回見る過去。それは時計の記憶であり、十三代目アリスの過去。だけど、今見ている記憶には、把握しきれない程の歴史と想いが溢れている。過ぎ去って枯れた薔薇が、ふわりと前を通り過ぎていく。落ちてきた小さな鍵を掴もうとしても、包んだ両手に留まることはなかった。シルクハットがチラリと見えて、そこにはお茶会の記憶がカップに注がれるように流れている。お茶会を楽しむいつかのアリス達の記憶は、誰かの涙がぼかしていく。時計は、彼女たちの想いをも鮮明に伝えてくる。
アリスの使命に嘆く少女。ひたすら謝り悲しむ少女。想いに気付き、愛を伝える少女。
そして。
『皆が、皆が大好きよ』
仲間達を心から愛した少女、一代目アリス。
彼女達は皆歴代のアリス達。私と同じ使命を背負った女の子。彼女達の記憶の欠片が、想いが頭に入り込んでくる。 いつもは霧がかかっているようにハッキリとしないのに、今回だけは鮮明に見える。
黒ウサギに、触れているから?
思い出してみれば、鮮明になった記憶を見るのは、毎回黒ウサギや白ウサギに接触している時だった。
黒ウサギは、見えてないんだよね。
見えていればいいのに。伝わればいいのに。どうして肝心なことはこんなにも伝わらないんだろう。
今は見えない彼に問いかける。
ねぇ黒ウサギ、どうしたら、貴方を大切に想う気持ちは伝わるの?
視界が光に覆われて、切ない記憶も想いも全て光の中に消えていく。あるのはただ、闇に覆われた世界と、黒ウサギの存在だけ。
「黒ウサギっ!」
穴から出ても背中を向け足早に進む黒ウサギ。腕が痛い。
静寂を際立たせるかのように、草を踏む足の音が薄暗い森にやけに響く。ここがどこかも、もう分からない。私の声が届いたのか、黒ウサギは進むのを止めピタリと止まる。黒い髪は靡くことも、動くこともなく、ただ静止し続ける。振り向いてくれない黒ウサギに、私はただ黙ることしか出来ない。伝えたいことは沢山あるのに、こんな時ばかり上手く声が出せない。それでも、抑えきれない想いが強くて込み上げる言葉を吐き出す。
「黒ウサギ! 私は貴方を、皆を、世界を救いたいの! でも、私一人じゃ力が足りない。呪いを解くには皆の力だけじゃない! 黒ウサギの力も必要なの!」

