断言は出来ないけれど、多分一代目アリスのことだ。 握った黒い鎌をぎゅっ、と離さないように力を込める。一代目アリス。仲間の先頭に立ち暗黒の魔女と対峙した人。夢のような過去で、彼女は鎌を持って立ち向かっていった。暗黒の魔女に鎌を振り上げ、その後魔女がどうなったのか、アリスがどうなったのかは分からない。でも結果、魔女は不思議の国から姿を消し、私の知る限り今に至るまで数千年姿を現さなかった。
「どうした? 皆を守るのだろう? ふふ、ハハハハハハハ! 所詮、軟弱で無知なお前では妾を倒すどころか、触れることすら出来んだろうがなぁ! さぁさぁさぁ足掻けアリス! 妾を楽しませよ!」
魔女が嘲笑う。響かないはずの声。世界中に響いているように思えるくらい、声は周りに響きわたる。耳が、痛い。足もすくむ。
私は彼女のように出来る?
足元を見れば、血の気の失せた三月ウサギ。致命傷を負い微かな呼吸しかしていない。エースは狂気に耐えるのが精一杯のようで、必死に何かを呟いている。兵士達は狂気に耐えきれず、まだ狂ったように笑っている。チェシャ猫も倒れたまま動かない。助けも呼べない。私はたった一人で戦わなきゃいけないんだ。
怖くて、不安で、また狂気に呑まれてしまいそう。
ここにはいなくても、共に戦っている仲間の顔を思い出す。そう。私は一人なんかじゃない。ここにいなくたって、私を応援してくれる人達がいる。私が守りたい人達がこの世界にはいる。
「暗黒の魔女。私は貴女に負けない。仲間を、世界を誰一人貴女の思い通りになんてさせない」
「ほぅ」
ほとんど無意識に近いのに、決意が言葉になっていく。
「白ウサギも黒ウサギも私は選ばない。二人を消したりなんてしない」
立ち上がり、鎌を握る手に再び力を込め構える。一代目アリスがそうしたように。
踏み込むため足の角度も変えると、乾いた地面が擦れる音がした。いつの間にか地鳴りは止んで地面の揺れもない。
「暗黒の魔女、私達は貴女に負けない!」
「ハハハハハハハ! 傑作傑作傑作傑作! 妾が期待通りよ!」
数歩先の魔女に、鎌の光は徐々に大きく変化しついには魔女を捕えた。ありったけの力を込めて鎌を振り降ろす。
「クク、ヒャハハハハハハ! 愚か者め! 妾を誰だと思うておる! 愚弄するか小娘の分際で! ヒャハハハハハハハ!」
煙のように暗黒の魔女の身体が揺らぎ、鎌は手応えがないまま通り抜ける。暗黒の魔女は余裕の笑みでただそこに在った。けれど一瞬、暗黒の魔女の姿が消えかかり、彼女の後ろにある風景が見えた。淀んだ雲の切れ間から、天使が降りてくるような光が射す。それも瞬く間だった。
光と共に希望も消えたように思えた。嘲笑い見下ろす魔女の視線に、死が、絶望が間近に迫るのを感じる。煌びやかなドレスが闇を受けて怪しく揺らめき、私の身体を包もうと迫ってきた。闇に食べられてしまうのでは、と呆然としていた私の身体が、勢いよく後退する。
「アリス! 平気か」
「黒、ウサギ?」
見えたのは、紛れもない黒ウサギの顔。状況が理解出来ないまま地面へと下ろされ、徐々に自分が助かったのを理解する。まだ呆然としている私の腕を、黒ウサギは引っ張った。
「どうして」
「逃げるぞ」
「え? 」
いつの間にか黒ウサギの先には、ウサギの穴がある。
黒ウサギに腕を引かれ、突然の展開に状況が呑み込めないまま、ウサギの穴へと走る。
鎌では魔女を倒せない。考えれば、封じられているはずの暗黒の魔女が此処にいるのはおかしい。実体がない可能性は十分にあった。魔女は倒せない。けれど彼女はその狂気だけで人の心を奪うことができる。
「クク。逃げるか! ハハハハハハハ! 逃げる逃げる逃げる! 逃げてみよ! 逃げたところで妾から、呪いから逃れられぬことを知るが良い! ハハハハハハハ!」
空気も地面も、魔女の狂気に応えるかのように、激しく振動し始める。崩れ落ちる地面。なぎ倒される木々。吹き荒れる暗黒の霧と風。 不安定な地面に足をとられないように気を付けながら、吸い込まれるように穴へと飛び込んだ。
「どうした? 皆を守るのだろう? ふふ、ハハハハハハハ! 所詮、軟弱で無知なお前では妾を倒すどころか、触れることすら出来んだろうがなぁ! さぁさぁさぁ足掻けアリス! 妾を楽しませよ!」
魔女が嘲笑う。響かないはずの声。世界中に響いているように思えるくらい、声は周りに響きわたる。耳が、痛い。足もすくむ。
私は彼女のように出来る?
足元を見れば、血の気の失せた三月ウサギ。致命傷を負い微かな呼吸しかしていない。エースは狂気に耐えるのが精一杯のようで、必死に何かを呟いている。兵士達は狂気に耐えきれず、まだ狂ったように笑っている。チェシャ猫も倒れたまま動かない。助けも呼べない。私はたった一人で戦わなきゃいけないんだ。
怖くて、不安で、また狂気に呑まれてしまいそう。
ここにはいなくても、共に戦っている仲間の顔を思い出す。そう。私は一人なんかじゃない。ここにいなくたって、私を応援してくれる人達がいる。私が守りたい人達がこの世界にはいる。
「暗黒の魔女。私は貴女に負けない。仲間を、世界を誰一人貴女の思い通りになんてさせない」
「ほぅ」
ほとんど無意識に近いのに、決意が言葉になっていく。
「白ウサギも黒ウサギも私は選ばない。二人を消したりなんてしない」
立ち上がり、鎌を握る手に再び力を込め構える。一代目アリスがそうしたように。
踏み込むため足の角度も変えると、乾いた地面が擦れる音がした。いつの間にか地鳴りは止んで地面の揺れもない。
「暗黒の魔女、私達は貴女に負けない!」
「ハハハハハハハ! 傑作傑作傑作傑作! 妾が期待通りよ!」
数歩先の魔女に、鎌の光は徐々に大きく変化しついには魔女を捕えた。ありったけの力を込めて鎌を振り降ろす。
「クク、ヒャハハハハハハ! 愚か者め! 妾を誰だと思うておる! 愚弄するか小娘の分際で! ヒャハハハハハハハ!」
煙のように暗黒の魔女の身体が揺らぎ、鎌は手応えがないまま通り抜ける。暗黒の魔女は余裕の笑みでただそこに在った。けれど一瞬、暗黒の魔女の姿が消えかかり、彼女の後ろにある風景が見えた。淀んだ雲の切れ間から、天使が降りてくるような光が射す。それも瞬く間だった。
光と共に希望も消えたように思えた。嘲笑い見下ろす魔女の視線に、死が、絶望が間近に迫るのを感じる。煌びやかなドレスが闇を受けて怪しく揺らめき、私の身体を包もうと迫ってきた。闇に食べられてしまうのでは、と呆然としていた私の身体が、勢いよく後退する。
「アリス! 平気か」
「黒、ウサギ?」
見えたのは、紛れもない黒ウサギの顔。状況が理解出来ないまま地面へと下ろされ、徐々に自分が助かったのを理解する。まだ呆然としている私の腕を、黒ウサギは引っ張った。
「どうして」
「逃げるぞ」
「え? 」
いつの間にか黒ウサギの先には、ウサギの穴がある。
黒ウサギに腕を引かれ、突然の展開に状況が呑み込めないまま、ウサギの穴へと走る。
鎌では魔女を倒せない。考えれば、封じられているはずの暗黒の魔女が此処にいるのはおかしい。実体がない可能性は十分にあった。魔女は倒せない。けれど彼女はその狂気だけで人の心を奪うことができる。
「クク。逃げるか! ハハハハハハハ! 逃げる逃げる逃げる! 逃げてみよ! 逃げたところで妾から、呪いから逃れられぬことを知るが良い! ハハハハハハハ!」
空気も地面も、魔女の狂気に応えるかのように、激しく振動し始める。崩れ落ちる地面。なぎ倒される木々。吹き荒れる暗黒の霧と風。 不安定な地面に足をとられないように気を付けながら、吸い込まれるように穴へと飛び込んだ。

