「それにさ、前も言ったけど、怖い夢を見る時は僕が助けに行く、から」
俯きがちに、声はだんだんと小さくなりながらも言い切ってくれた夢魔が愛しおしくて、思わずぎゅっと抱き締める。
「ありがとう! 必ず呪いを解くから! その時は一緒に外へ出て遊ぼうね!」
「分かった! 分かったから離れてよ! 子供扱いするな!」
恥ずかしさがピークに達したのか、腕の中で暴れる夢魔。夢魔の言葉通り大人しく離すと、彼にとって無重力に等しいのか上へと逃げられる。
『―で―いいの?』
夢魔を離した途端、聞いたことのない声が何処からか聞こえてきた。
『私はウサギに――えてほしくない――黒ウサギが――のは――嫌―』
途切れ途切れの声と同時、次は映像と共に聞こえてくる聞き覚えのある声。
「これは、十三代目アリスの記憶?」
そう呟くと、一気に記憶の渦へと吸い込まれていく。
チクタク、チクタク、と時計の針が回る音がする。
『――なの――誰よりも――女王様よりも――いたい――』
涙を流しながら必死に言葉を紡ぐ前代のアリス。それを聞くのは猫耳の青年。きっと彼は前代のチェシャ猫なのだろう。
『なら、――けるぞ。さん――ウサギはもう――された――時間がない』
獣そのものの瞳で言い放つ。重要な事を言っている気がするのに、よく聞こえない。時計の記憶は止まることなく進み、前代チェシャ猫の体は少しずつ消えて、前代アリス一人が取り残される。
『どうして。どうしてなの。お姉様』
最後の声だけ、はっきりと耳に響いた。映像はそこで途切れ、今度は私の意識だけが取り残される。
「どうして、どうして時計は私に前代アリスの記憶を見せるの?」
悲しい結末を迎えた前代アリスの歩んだ旅。
私に何を伝えたいの?
彼女の結末に何があるというの?
答えは出ないまま、意識は現実へと戻っていく。目が覚める前兆なのか、体の感覚が開いていく。頬に感じる違和感。ざらざらとしたものが頬を擦っているような、まるで猫が頬を舐めているような。
「ん、くすぐったい」
そう。猫が舐めているような?
思い当たる猫を思い出して曖昧だった意識が一気に覚醒する。
「チェシャ猫、ストップストップ!」
目をぎゅっと瞑ったまま勢いよく飛び起きると、数秒の間が空き、腑抜けたような答えが返ってきた。
「どうしたんだい?」
「へ?」
少しずつ目を開けると、横には驚いた表情を浮かべたチェシャ猫がいた。
「チェシャ猫、あれ?」
チェシャ猫の表情が予想外だったので不思議に思っていると、チェシャ猫の膝の上に乗る灰色の猫が目に入る。猫はニャアと一度鳴くと、首に巻かれているリボンに飾ってある鈴を鳴らしながら、今度は私の膝の上に飛び乗ってきた。
「もしかして、私の頬を舐めていたのって」
「ニャア」
そうだよ、と言うように鳴くと、肩に前足を置き、頬を舐めてくる。
「なんだ、チェシャ猫じゃなかったんだ、って、わわ、くすぐったい!」
頬擦りまでしてくる灰色の猫。私はそのくすぐったさに安堵を覚えた。
「僕がどうしたんだい?」
「なっ、なんでもないよ!」
不思議そうに首を傾けるチェシャ猫から視線を外し、波打つ胸を落ち着かせる。
やだ、私ったら変な勘違いをしてしまった。
「それにしても」
チェシャ猫の呟きに頭を切り替え、話題になるだろう灰色の猫を見つめる。一通り甘えたのか、私の膝の上で毛繕いを始めた見知らぬ猫。視線に気付き、私を見て再び鳴く。
「やけに人懐っこい猫だね。飼われているにしては、何でこんな場所にいるんだろうね?」
俯きがちに、声はだんだんと小さくなりながらも言い切ってくれた夢魔が愛しおしくて、思わずぎゅっと抱き締める。
「ありがとう! 必ず呪いを解くから! その時は一緒に外へ出て遊ぼうね!」
「分かった! 分かったから離れてよ! 子供扱いするな!」
恥ずかしさがピークに達したのか、腕の中で暴れる夢魔。夢魔の言葉通り大人しく離すと、彼にとって無重力に等しいのか上へと逃げられる。
『―で―いいの?』
夢魔を離した途端、聞いたことのない声が何処からか聞こえてきた。
『私はウサギに――えてほしくない――黒ウサギが――のは――嫌―』
途切れ途切れの声と同時、次は映像と共に聞こえてくる聞き覚えのある声。
「これは、十三代目アリスの記憶?」
そう呟くと、一気に記憶の渦へと吸い込まれていく。
チクタク、チクタク、と時計の針が回る音がする。
『――なの――誰よりも――女王様よりも――いたい――』
涙を流しながら必死に言葉を紡ぐ前代のアリス。それを聞くのは猫耳の青年。きっと彼は前代のチェシャ猫なのだろう。
『なら、――けるぞ。さん――ウサギはもう――された――時間がない』
獣そのものの瞳で言い放つ。重要な事を言っている気がするのに、よく聞こえない。時計の記憶は止まることなく進み、前代チェシャ猫の体は少しずつ消えて、前代アリス一人が取り残される。
『どうして。どうしてなの。お姉様』
最後の声だけ、はっきりと耳に響いた。映像はそこで途切れ、今度は私の意識だけが取り残される。
「どうして、どうして時計は私に前代アリスの記憶を見せるの?」
悲しい結末を迎えた前代アリスの歩んだ旅。
私に何を伝えたいの?
彼女の結末に何があるというの?
答えは出ないまま、意識は現実へと戻っていく。目が覚める前兆なのか、体の感覚が開いていく。頬に感じる違和感。ざらざらとしたものが頬を擦っているような、まるで猫が頬を舐めているような。
「ん、くすぐったい」
そう。猫が舐めているような?
思い当たる猫を思い出して曖昧だった意識が一気に覚醒する。
「チェシャ猫、ストップストップ!」
目をぎゅっと瞑ったまま勢いよく飛び起きると、数秒の間が空き、腑抜けたような答えが返ってきた。
「どうしたんだい?」
「へ?」
少しずつ目を開けると、横には驚いた表情を浮かべたチェシャ猫がいた。
「チェシャ猫、あれ?」
チェシャ猫の表情が予想外だったので不思議に思っていると、チェシャ猫の膝の上に乗る灰色の猫が目に入る。猫はニャアと一度鳴くと、首に巻かれているリボンに飾ってある鈴を鳴らしながら、今度は私の膝の上に飛び乗ってきた。
「もしかして、私の頬を舐めていたのって」
「ニャア」
そうだよ、と言うように鳴くと、肩に前足を置き、頬を舐めてくる。
「なんだ、チェシャ猫じゃなかったんだ、って、わわ、くすぐったい!」
頬擦りまでしてくる灰色の猫。私はそのくすぐったさに安堵を覚えた。
「僕がどうしたんだい?」
「なっ、なんでもないよ!」
不思議そうに首を傾けるチェシャ猫から視線を外し、波打つ胸を落ち着かせる。
やだ、私ったら変な勘違いをしてしまった。
「それにしても」
チェシャ猫の呟きに頭を切り替え、話題になるだろう灰色の猫を見つめる。一通り甘えたのか、私の膝の上で毛繕いを始めた見知らぬ猫。視線に気付き、私を見て再び鳴く。
「やけに人懐っこい猫だね。飼われているにしては、何でこんな場所にいるんだろうね?」

