3 海ガメスープ
ユラユラと漂う感覚。
耳に届くのは泡が水中を漂う音。
「アリス。ほら、息をして。それに目を開けても大丈夫だよ」
チェシャ猫の言葉に、止めていた息をそっと吐き出し、少しずつ息を吸う。水の中だというのに、息苦しさは全く感じなかった。むしろ、涼しくて気持ちがいいくらい。
目を開けると一面の青の世界と、底には無数の岩やキラキラと光る宝石のような石。小さな魚の鱗もきらりと光っている。
幻想的な水の世界に、体はどんどん沈んでいた。水面はユラユラと光を帯びながら揺れている。
「アリス! こっちですよ!」
川底を見ると、白ウサギとビルがこちらを見上げてゆったりと手を振っている。やがて体は先程よりも沈み、足が川底にゆっくりとつく。川底の砂がふわりと舞った。
「すみません。話の途中で落ちてしまって」
白ウサギはそう言うと、恥ずかしそうに笑った。
「ふふっ。白ウサギはおっちょこちょいなんだね」
「あぁぁ! アリスまで僕の事を、おっちょこちょい呼ばわりするんですかー」
白ウサギの横でビルがクスクスと笑うと、白ウサギが何かに気付いたようだった。
「ビル! 君ですね! アリスに僕がおっちょこちょいだなんて吹き込んだのは!」
「えー? ぼくしーらない!」
ビルがニコニコと知らないふりをすると、白ウサギはため息を吐く。
「僕はそんなおっちょこちょいじゃないんです」
「し、白ウサギ」
少しだけふてくされる白ウサギ。兎耳が垂れて、ちょっと可愛いだなんて思ったり。白ウサギは自覚なしなんだ。
「とにかく今はそんな事言っている場合ではありませんね! あのまま立ち話もなんでしたし、行きましょうか!」
「わっ! 白ウサギ!」
元気を取り戻した白ウサギは、私の手を引っ張ってスタスタと歩き始めた。水の圧力が少しだけ影響しているのか、歩く足取りは地上よりも遅い。チェシャ猫と違って長い耳が歩く度にふわりふわりと揺れる。
「白ウサギ! どこに行くの?」
ここはあくまでも川の中。地上に出るのかと思いきや、そんな気配が全くない。
「白ウサギのおうちだよー! あのね! あのね! 白ウサギのおうちは水の中にあるんだよ!」
「なるほど、帽子屋が白ウサギの足取りを掴めなったのは、水の中に消えたからだったんだね」
「白ウサギの家?」
「はい。これから僕の家に招待します。せっかくアリスが来たことですし。それに、アリスに会いたがっている方々もいるので」
「私に、会いたがっている?」
急な展開になかなか話についていけない。帽子屋の意地悪だけれど、私に会いたくない、なら聞いたことはあるけれど、会いたがっているのは初めてだ。
「ねぇ白ウサギ、」
「はい。何ですか?」
「私に会いたくなかった?」
「なんですって!」
白ウサギは再びあたふたと狼狽した後、むーっと考え始める。やがて考え終わると、遠い記憶を辿るように言葉を掬う。
「会いたくないと、思っていました。けれどそれは、僕が全てを諦めていた時の事です」
白ウサギは真っ直ぐと前を見据えた。その瞳があまりにも真摯で、思わず魅入ってしまう。
人より早く、この世界から消えてしまう運命。私だったら、怖くて、辛くて。足掻いて足掻いて、それでもどうにもならない現実に諦めてしまうだろう。
ユラユラと漂う感覚。
耳に届くのは泡が水中を漂う音。
「アリス。ほら、息をして。それに目を開けても大丈夫だよ」
チェシャ猫の言葉に、止めていた息をそっと吐き出し、少しずつ息を吸う。水の中だというのに、息苦しさは全く感じなかった。むしろ、涼しくて気持ちがいいくらい。
目を開けると一面の青の世界と、底には無数の岩やキラキラと光る宝石のような石。小さな魚の鱗もきらりと光っている。
幻想的な水の世界に、体はどんどん沈んでいた。水面はユラユラと光を帯びながら揺れている。
「アリス! こっちですよ!」
川底を見ると、白ウサギとビルがこちらを見上げてゆったりと手を振っている。やがて体は先程よりも沈み、足が川底にゆっくりとつく。川底の砂がふわりと舞った。
「すみません。話の途中で落ちてしまって」
白ウサギはそう言うと、恥ずかしそうに笑った。
「ふふっ。白ウサギはおっちょこちょいなんだね」
「あぁぁ! アリスまで僕の事を、おっちょこちょい呼ばわりするんですかー」
白ウサギの横でビルがクスクスと笑うと、白ウサギが何かに気付いたようだった。
「ビル! 君ですね! アリスに僕がおっちょこちょいだなんて吹き込んだのは!」
「えー? ぼくしーらない!」
ビルがニコニコと知らないふりをすると、白ウサギはため息を吐く。
「僕はそんなおっちょこちょいじゃないんです」
「し、白ウサギ」
少しだけふてくされる白ウサギ。兎耳が垂れて、ちょっと可愛いだなんて思ったり。白ウサギは自覚なしなんだ。
「とにかく今はそんな事言っている場合ではありませんね! あのまま立ち話もなんでしたし、行きましょうか!」
「わっ! 白ウサギ!」
元気を取り戻した白ウサギは、私の手を引っ張ってスタスタと歩き始めた。水の圧力が少しだけ影響しているのか、歩く足取りは地上よりも遅い。チェシャ猫と違って長い耳が歩く度にふわりふわりと揺れる。
「白ウサギ! どこに行くの?」
ここはあくまでも川の中。地上に出るのかと思いきや、そんな気配が全くない。
「白ウサギのおうちだよー! あのね! あのね! 白ウサギのおうちは水の中にあるんだよ!」
「なるほど、帽子屋が白ウサギの足取りを掴めなったのは、水の中に消えたからだったんだね」
「白ウサギの家?」
「はい。これから僕の家に招待します。せっかくアリスが来たことですし。それに、アリスに会いたがっている方々もいるので」
「私に、会いたがっている?」
急な展開になかなか話についていけない。帽子屋の意地悪だけれど、私に会いたくない、なら聞いたことはあるけれど、会いたがっているのは初めてだ。
「ねぇ白ウサギ、」
「はい。何ですか?」
「私に会いたくなかった?」
「なんですって!」
白ウサギは再びあたふたと狼狽した後、むーっと考え始める。やがて考え終わると、遠い記憶を辿るように言葉を掬う。
「会いたくないと、思っていました。けれどそれは、僕が全てを諦めていた時の事です」
白ウサギは真っ直ぐと前を見据えた。その瞳があまりにも真摯で、思わず魅入ってしまう。
人より早く、この世界から消えてしまう運命。私だったら、怖くて、辛くて。足掻いて足掻いて、それでもどうにもならない現実に諦めてしまうだろう。

