幼い私はチェシャ猫の手を両手で包むと、チェシャ猫は更に泣きそうな顔をする。
『アリス、僕には呪いがかかっていて、いずれ世界が崩壊する時、姿を消さなきゃいけないんだ。もし僕がいたら、魔女が世界を壊すって。だから、アリスとは』
ズキリ、と胸に針が刺さったみたいに痛い。思い出せなかった言葉。思い出したくなかった言葉。
『アリスとはずっと一緒にいられない』
チェシャ猫の言葉に、幼い私は目を見開いた。チェシャ猫の言葉を、信じたくなくて。受け入れたくなくて。それはとても悲しいものだったから。悲しさに耐えられずに泣く私を見て、チェシャ猫も目に涙を溜める。
『やだっ! やだよ、チェシャ猫』
チェシャ猫の言葉は現実になってしまった。嫌だよチェシャ猫。今でも思うよ。離れたくないよ。
チェシャ猫の瞳から、ボロボロと涙がおちる。幼い私は余計に悲しくなって、声をあげて泣いた。チェシャ猫も、声をあげて泣いた。そして、僕も嫌だと呟いて。
『僕は君とずっと一緒にたいよ!』
それは初めて聞いた、チェシャ猫の素直な気持ち。思い出したかった、チェシャ猫の気持ちだ。チェシャ猫と再び出会ってから、チェシャ猫には色んなことをはぐらかされてきた。でも、もしこの時の気持ちと変わってないのなら。
「チェシャ猫、私も、チェシャ猫とずっと一緒にいたいよ!」
この懐中時計が、この記憶を見せてくれているのなら。もしもまだ、奇跡の魔法が残されているのなら。
「お願い、懐中時計。お願い、この先にいるチェシャ猫に会わせて!」
懐中時計が再び光る。幼い私とチェシャ猫の泣き声が遠くなっていく。遠い過去に還っていく。目の前に、永遠に続くような薔薇のアーチが現れる。とん、と背中を押されて足を踏み出した。
「行ってこい!」
「彼は貴女を待っていますよ」
踏み出した右足を踏み込んで、左足を前に踏み出す。そのまま次も。振り返らない。似通った二人の声が、誰だか分かったから。進め、私の足。走って、走って。息がきれたって走って貴方に追い付いてみせる。見失ったって、姿が消えたって私は諦めない。
「こっちですよー」
「遅い! 亀よりノロマだ!」
「アリス可愛い!」
三人の声が、どこからともかく聞こえる。またスープを作ってくれるかな。今度はお客さんとして、一緒に行きたいね、チェシャ猫。
「悪戯しちゃう?」
「悪戯してもいい?」
「時計は進むんです、王子のように」
「僕は今でもアリスの騎士だよ」
悪戯はやめてほしいけれど。銀杏みたいな黄色と、蜜柑みたいなオレンジのダイヤの葉。次は恐れることなく眺めたいよね、チェシャ猫。
「起きていてやるから」
「お茶会するから奴を呼んできてくれないか」
「モウスグ、モウスグ」
お茶会、今度は三人で囲んでいるところみてみたいな。そこにチェシャ猫も入ると、喧嘩になっちゃいそうだけれど。仲良くお茶したいね。
「もう夢じゃないよ、だから」
「走れ走れー! オイラも走ろうか、なんてな」
鏡から解放されたら、不思議の国を一緒に見て回りたいね。チェシャ猫、案内してくれるかな?
「ねぇチェシャ猫、こんなにも、チェシャ猫としたいことがあるよ。行きたい場所があるよ! 一緒に未来を過ごしたいよ! チェシャ猫っ!」
アーチの終わりが見える。でも、アーチの出口は真っ白で、何もないように思えた。過去も記憶も未来も存在も全てを消してしまいそうな白。そうだよ、私は、私達は描いていく。消えるためじゃない、私達は未来を歩むために。想いを繋いで生きていく。
『アリス、僕には呪いがかかっていて、いずれ世界が崩壊する時、姿を消さなきゃいけないんだ。もし僕がいたら、魔女が世界を壊すって。だから、アリスとは』
ズキリ、と胸に針が刺さったみたいに痛い。思い出せなかった言葉。思い出したくなかった言葉。
『アリスとはずっと一緒にいられない』
チェシャ猫の言葉に、幼い私は目を見開いた。チェシャ猫の言葉を、信じたくなくて。受け入れたくなくて。それはとても悲しいものだったから。悲しさに耐えられずに泣く私を見て、チェシャ猫も目に涙を溜める。
『やだっ! やだよ、チェシャ猫』
チェシャ猫の言葉は現実になってしまった。嫌だよチェシャ猫。今でも思うよ。離れたくないよ。
チェシャ猫の瞳から、ボロボロと涙がおちる。幼い私は余計に悲しくなって、声をあげて泣いた。チェシャ猫も、声をあげて泣いた。そして、僕も嫌だと呟いて。
『僕は君とずっと一緒にたいよ!』
それは初めて聞いた、チェシャ猫の素直な気持ち。思い出したかった、チェシャ猫の気持ちだ。チェシャ猫と再び出会ってから、チェシャ猫には色んなことをはぐらかされてきた。でも、もしこの時の気持ちと変わってないのなら。
「チェシャ猫、私も、チェシャ猫とずっと一緒にいたいよ!」
この懐中時計が、この記憶を見せてくれているのなら。もしもまだ、奇跡の魔法が残されているのなら。
「お願い、懐中時計。お願い、この先にいるチェシャ猫に会わせて!」
懐中時計が再び光る。幼い私とチェシャ猫の泣き声が遠くなっていく。遠い過去に還っていく。目の前に、永遠に続くような薔薇のアーチが現れる。とん、と背中を押されて足を踏み出した。
「行ってこい!」
「彼は貴女を待っていますよ」
踏み出した右足を踏み込んで、左足を前に踏み出す。そのまま次も。振り返らない。似通った二人の声が、誰だか分かったから。進め、私の足。走って、走って。息がきれたって走って貴方に追い付いてみせる。見失ったって、姿が消えたって私は諦めない。
「こっちですよー」
「遅い! 亀よりノロマだ!」
「アリス可愛い!」
三人の声が、どこからともかく聞こえる。またスープを作ってくれるかな。今度はお客さんとして、一緒に行きたいね、チェシャ猫。
「悪戯しちゃう?」
「悪戯してもいい?」
「時計は進むんです、王子のように」
「僕は今でもアリスの騎士だよ」
悪戯はやめてほしいけれど。銀杏みたいな黄色と、蜜柑みたいなオレンジのダイヤの葉。次は恐れることなく眺めたいよね、チェシャ猫。
「起きていてやるから」
「お茶会するから奴を呼んできてくれないか」
「モウスグ、モウスグ」
お茶会、今度は三人で囲んでいるところみてみたいな。そこにチェシャ猫も入ると、喧嘩になっちゃいそうだけれど。仲良くお茶したいね。
「もう夢じゃないよ、だから」
「走れ走れー! オイラも走ろうか、なんてな」
鏡から解放されたら、不思議の国を一緒に見て回りたいね。チェシャ猫、案内してくれるかな?
「ねぇチェシャ猫、こんなにも、チェシャ猫としたいことがあるよ。行きたい場所があるよ! 一緒に未来を過ごしたいよ! チェシャ猫っ!」
アーチの終わりが見える。でも、アーチの出口は真っ白で、何もないように思えた。過去も記憶も未来も存在も全てを消してしまいそうな白。そうだよ、私は、私達は描いていく。消えるためじゃない、私達は未来を歩むために。想いを繋いで生きていく。

