「私はアリス! 貴女の呪いによって使命を負ったアリス! 貴女が壊してきたアリス達の想いも崩壊の恐ろしさも、死の恐怖も私には受け継がれている。その悲しみが叫ぶんだよ、許せないって、憎いって。でも、貴女の悲しみも知ってしまった。私は貴女を殺せない。でも、貴女も私を殺せない」
暗黒の魔女の瞳が、私の瞳を覗く。
どうしてアリスの記憶が引き継がれ続けたのか。それはずっと、ウサギを救うためだと思っていた。時計が見せていたのは、ウサギを愛した記憶。悲しみを繰り返さない為の記憶。事実、魔法はウサギの為に奇跡を起こした。
けれど今は、魔女に伝える為なのだとも思える。
「貴女の負けよ。暗黒の魔女。その子の言うとおり貴女はその子を殺せない」
空が割れるような声があがった。いつの間にかリティアと名乗る女性がアーサーの後ろに立っている。
彼女の姿を見た瞬間、ふ、と十三代目のアリスが時計に魔法を託した時の記憶が甦った。
女王様の赤の壁に金色の模様がある部屋とは真逆の、藍色の壁に金色の模様が入った壁。アリスさんを表すような青、白、金をベースに彩られた部屋。
カーテンがついた、白いお姫様ベッド。深い藍色に金色の刺繍の入ったふわりとした布団。その上にアリスさんは懐中時計を胸に握っていた、あの時。
『さぁ、契約です』
そうアリスさんに言った金色の髪の幼い少女がいた。アリスさんと女王様と同じウェーブのかかった髪。不思議な雰囲気を纏った少女。リティアはあの時の少女だ。
暗黒の魔女であるエレノアは私をじっと見つめ続けていた。
「お前の中に、アリス達の悲しみがあるのだな。憎しみがあるのだな。その瞳は妾の鏡。お前は妾の同胞。憎しみの末路。クククク、ハハハハ! 憎しみの記憶を継ぎながら、それでも希望を宿すとは! ハハハハ! ハハハハ! 理解した。妾の敗けだアリス!」
首を絞めていた腕が離れていく。暗黒の魔女は喉を鳴らしながら笑い続ける。
「二つの世界を往き来したその身、その憎しみ、その希望、この世界で魔女となり得る素質は揃えたということか。貴様に魔女になられては敵わぬ。妾を消すことも容易かろう。さぁどうするアリス、『妾を殺せない』のは『エレノアは死なせたくない』からだろう? お前なら暗黒の魔女を消すことが出来るぞ」
魔女になるかどうかはよく理解出来ていない。でも不思議の国が夢物語の中だと知ってしまった私は、夢を夢だと理解してしまった私は、不思議の国に影響を及ぼすということだろう。
暗黒の魔女が私に選択を迫る。
「貴女はエレノアなんでしょ。エレノアの一面、エレノアの闇。貴女を否定することはエレノアを否定することになる。憎しみや悲しみと言った、人の側面を否定することになる。それはアリスの悲しみを否定することになる気がするの。それに、ね、アーサー」
「あぁ、俺が受け止める。俺はいつか君に言っただろう。君を愛しく想うほど、君を傷つける者への憎しみは増す。愛が深ければ深いほど、憎しみも増すものだと。君の憎しみは、君の愛の叫びだ。俺が受け止めなくてどうするのだ」
暗黒の魔女がアーサーに冷たい視線を送る。
「妾の憎しみが、愛の裏返しだと言うのか? 気持ち悪い、自信過剰にも程があるぞ」
エレノアの顔で言われたのが胸に刺さったのか、アーサーが白目を剥く。でもすぐに立て直して、エレノアの手をとって膝まずいた。その様子はいつかの湖での風景を思い出させた。
「俺と共に来てくれないか。いつか夢物語が終わるとしても。俺が君を幸せにすると誓おう。愛しているよ、エレノア」
暗黒の魔女の瞳が、私の瞳を覗く。
どうしてアリスの記憶が引き継がれ続けたのか。それはずっと、ウサギを救うためだと思っていた。時計が見せていたのは、ウサギを愛した記憶。悲しみを繰り返さない為の記憶。事実、魔法はウサギの為に奇跡を起こした。
けれど今は、魔女に伝える為なのだとも思える。
「貴女の負けよ。暗黒の魔女。その子の言うとおり貴女はその子を殺せない」
空が割れるような声があがった。いつの間にかリティアと名乗る女性がアーサーの後ろに立っている。
彼女の姿を見た瞬間、ふ、と十三代目のアリスが時計に魔法を託した時の記憶が甦った。
女王様の赤の壁に金色の模様がある部屋とは真逆の、藍色の壁に金色の模様が入った壁。アリスさんを表すような青、白、金をベースに彩られた部屋。
カーテンがついた、白いお姫様ベッド。深い藍色に金色の刺繍の入ったふわりとした布団。その上にアリスさんは懐中時計を胸に握っていた、あの時。
『さぁ、契約です』
そうアリスさんに言った金色の髪の幼い少女がいた。アリスさんと女王様と同じウェーブのかかった髪。不思議な雰囲気を纏った少女。リティアはあの時の少女だ。
暗黒の魔女であるエレノアは私をじっと見つめ続けていた。
「お前の中に、アリス達の悲しみがあるのだな。憎しみがあるのだな。その瞳は妾の鏡。お前は妾の同胞。憎しみの末路。クククク、ハハハハ! 憎しみの記憶を継ぎながら、それでも希望を宿すとは! ハハハハ! ハハハハ! 理解した。妾の敗けだアリス!」
首を絞めていた腕が離れていく。暗黒の魔女は喉を鳴らしながら笑い続ける。
「二つの世界を往き来したその身、その憎しみ、その希望、この世界で魔女となり得る素質は揃えたということか。貴様に魔女になられては敵わぬ。妾を消すことも容易かろう。さぁどうするアリス、『妾を殺せない』のは『エレノアは死なせたくない』からだろう? お前なら暗黒の魔女を消すことが出来るぞ」
魔女になるかどうかはよく理解出来ていない。でも不思議の国が夢物語の中だと知ってしまった私は、夢を夢だと理解してしまった私は、不思議の国に影響を及ぼすということだろう。
暗黒の魔女が私に選択を迫る。
「貴女はエレノアなんでしょ。エレノアの一面、エレノアの闇。貴女を否定することはエレノアを否定することになる。憎しみや悲しみと言った、人の側面を否定することになる。それはアリスの悲しみを否定することになる気がするの。それに、ね、アーサー」
「あぁ、俺が受け止める。俺はいつか君に言っただろう。君を愛しく想うほど、君を傷つける者への憎しみは増す。愛が深ければ深いほど、憎しみも増すものだと。君の憎しみは、君の愛の叫びだ。俺が受け止めなくてどうするのだ」
暗黒の魔女がアーサーに冷たい視線を送る。
「妾の憎しみが、愛の裏返しだと言うのか? 気持ち悪い、自信過剰にも程があるぞ」
エレノアの顔で言われたのが胸に刺さったのか、アーサーが白目を剥く。でもすぐに立て直して、エレノアの手をとって膝まずいた。その様子はいつかの湖での風景を思い出させた。
「俺と共に来てくれないか。いつか夢物語が終わるとしても。俺が君を幸せにすると誓おう。愛しているよ、エレノア」

