桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~

七章 目が覚める時間


 私が目を覚ました世界は、本当の私の居場所なのかもしれない。
 寝ぼけていた頭が少しずつ覚醒していくように、この家での思い出がよみがえってくる。
 ハリーお兄様が自信満々でこのワンピースをくれた時のこと、ロリーナお姉さまに憧れて、ツインテールをやめた時の少し大人に近付いた気持ち、ジェームズお兄様の悪戯に加担して、ハリーお兄様にこっぴどく叱られた時のこと、イーディスのクラスメイトの恋のお話。
 不思議の国は、先生がくれた本の中のお伽噺で、夢の中の出来事だった。それを証明するかのように、ハリーお兄様が淹れてくれた紅茶は、帽子屋が淹れてくれた紅茶の香りと同じだ。この家の薔薇の庭はお城の庭に酷似している。
「失礼する。通報を行ったのはこちらの家だな。そこの青年、現状を詳しく伝えてくれ」
 十分ほどで現れた警官に、心臓が凍った。他人の空似だとは思えないくらいに声も仕草も一緒で、不思議の国で覚えた恐怖が足を震えさせる。違うのは、青いスペードをモチーフにした隊服が、今は警官の服に変わったことくらいだ。
「スペードのエース」
「この地域を担当するレオナルド・アクロイドだ。話を聞かせてくれ」
 口から漏れた声は誰にも届かず、夢の彼方へ消えていく。その警官はハリーお兄様から話を聞き終えると、ハリーお兄様がジェームズお兄様から預かっていた牢の鍵を受け取った。機敏な動きでマントの下に鍵をしまうと、チラリと私に視線を向けて外へ向かった。
 私の足も、後に続こうと踏み出す。けれど、そっと肩に触れた手に、足がとまった。
「心配する気持ちは分かるわ。けれど今は警察を信じて待ちましょう」
 ロリーナお姉さまの穏やかな声が、私を諌める。信じたい気持ちと、何も出来ないもどかしさが相反して、拳を握った。
「私、ユウリを危険に晒したの。牢に迷いこんでしまった私を逃がす為に、ユウリはわざとおじ様を怒らせて、ユウリは」