桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~

 グリフォンが怒鳴るように名前を呼ぶものだから、思わずこちらも大きな声をだしてしまった。今更だけれど、トランプ兵に見つかったら大変だ。
「俺たちの秘密を暴いたんだ。絶対に呪いを解けよ!」
「うん。絶対呪いを解くよ。もうみんなが泣かなくていいように。女王様のところにいこう」
「はい。呪いを一刻も早く解きましょう」
 白ウサギの言葉に、全員が頷く。チェシャ猫も頷いたけれど、僅かに悲しげな顔をしていて、私はそれが気になった。でも、メアリーに背中を押されて、聞くことができないまま、女王様の部屋に辿りつく。女王様の部屋を守るトランプ兵がいたけれど、チェシャ猫と海ガメが隙をつきトランプ兵の意識を沈めてしまった。
 ついに、女王様のところまできた。戻ってきた。
「ここから先は、私と白ウサギで行かせて」
 なんとなく、そうしなきゃいけないような気がした。
「平気かい?」
 チェシャ猫の顔を見ると、ついてきてほしくなる。でも。
「女王様、あまり多くの人を部屋に入れたがらないから」
 本来であれば謁見の手続きをふんでからでなければ、女王様に会うことはできない。人嫌いな女王様は、謁見さえも嫌がるのに、部屋に他人をいれるなんてもっての外だ。
「僕、生きてこの部屋を出られるでしょうか? 僕の命運は今日、予測していた最期よりもむごい最期をむかえる気しかしません」
「さっきのそんなにトラウマですかー?」
「いーから、行ってこい! 今しかトランプ兵の見張りが少ない時間はねーんだよ!」
「頑張れ白ウサギー!」
「もっとビルみたいに応援してくださいよ。いや、僕がこんな気持ではいけませんね。貴女がいるんですから」
 白ウサギは私を見ると、背筋を伸ばす。顔は強張ったままだけど、女王様に挑もうとする気持ちは伝わってきた。
「うん。私がいるよ。私も不安だけど、白ウサギがいる」
 だから、大丈夫。
「女王様、入るね」
 赤い薔薇が描かれた扉を開ける。いくら大きくて厚い扉でも、私たちの声は聞こえていたはずだ。
 薔薇模様の部屋に入ると、予想通り怖い顔をした女王様が待ち構えていた。横にいる白ウサギが喉をごくりと鳴らす音が聞こえたけど、凍結したような空気の中では、気遣いの言葉さえ凍ってしまう気がした。
「知ってしまったのね。アンタが来ることがないようにと、願ったはずなのに」
 冷ややさの中に怒りが、絶望が滲んでいて、思わず足を後ろに引いた。けれど、後ろに下がることを、白ウサギは許してくれなかった。私の背中を白ウサギの腕が止める。
 違う、許してくれないのではない。白ウサギはいつだって、一緒に前に進もうとしてくれていた。
「黒ウサギの次は白ウサギと。黒ウサギがアンタと呪いを解く鏡を見つけると言ったのは、嘘ではなかったのね」
 女王様は怒っている。城を脱出するために黒ウサギの時計を止めると嘘をついて、女王様を謀ったこと。覚悟していたことではあったけれど、後ろめたいと思っていたことを責められるのは苦しい。喉が潰れてしまいそうだ。
「私を騙したことの罪は重いわよ、アリス。分かっているわね」
「うん。罰はうける覚悟はあります」
 女王様が私の真意を探るように、アイスブルーの瞳を細める。
「アンタの罪は重い。なら、鏡の存在を隠し続け、国の人間を苦しめ続けた私の罪は、どれほどに重いのかしら」
「女王陛下が国の全てを危険にさらしてまで、鏡の存在を隠したのはなぜですか? 理由があるはずです。そしてその理由を、白ウサギである僕は知る権利があるはずだ。教えてくださりませんか」