暗黒の魔女の戦いで、助けも呼べない。そんな状況で私はたった一人で戦った。怖くて、不安で、また狂気に呑まれてしまいそうだった。けれど、共に戦っている仲間の顔を思い出して。私は一人なんかじゃないって。 私は魔女に言った。
『暗黒の魔女。私は貴女に負けない。仲間を、世界を誰一人貴女の思い通りになんてさせない』
『白ウサギも黒ウサギも私は選ばない。二人を消したりなんてしない』
なのに私はここで諦めるの?
思ったはず。呪いを解く方法が分からなくても、魔女の予言が真実であっても。
「諦めたくない」
諦めたくない。そして諦めたくないって叫んだ私に、チェシャ猫は勇気をくれた。
『うん、諦めないでアリス。君なら必ず呪いを解けるから』
腕に、足に、力を込めて立ち上がる。視界は元の高さに戻ったはずなのに、数メートル上の位置にいる王子様と同じ目線に立てた気がした。王子様のダイヤの虹彩の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「私、呪いを解きます。諦めたくない。覚悟はあります」
此処に来る前から決めていた。
「ほぅ」
王子様は満足げに口角を上げる。私と変わらない年に見える、その外見からは想像出来ない、大人びた妖しい笑み。
「ならば力を貸そう。俺様は不思議の国の王。魔女に子供の姿にされ、愛する女王と引き離された悲劇のハートの王。千四百年、愛する妻との別居にもそろそろ煮を切らしていたところだ」
ダイヤの王子様の返答に、言葉を失った。
「俺様がお前に与えるのは情報と俺様の力。力といっても貸すだけだ。あくまでも動くのは桃色のアリス、お前だ」
情報と王子様の力。それはつまり王子様は呪いを解くのに協力し、力を貸してくれるということ。予想外の展開に、涙がこぼれそうになる。初めて、私の覚悟が誰かに認められた。
「まず、何が私にできますか」
「お前はまず知らなければならない。千四百年の苦しみと、呪いに打ち勝つ魔法を」
「千四百年の苦しみ? 魔法?」
「千四百年の長い時の間、我々は世界の崩壊の恐怖にさらされ続けた。歴代のアリスはその恐怖をなくす為、全ての責を負い、ウサギを消したその悲しみ、その苦しみが、何を生んだのか、お前は知る必要がある。お前は無知だ。無知は先入観や偏見から自由ではあるが、一方で無知は罪である。お前が無知であるということは、千四百年の苦しみを無下にし、踏みにじるということ」
ダイヤの王子の言葉が胸に刺さる。
「だから、受け継いでこい。アリスとして」
「アリス様にはこれから千四百年を知ってもらいます」
無表情のままで、何を考えているのか分からない。 頭上で丸く纏められた紫色の髪が、彼女の視線をより冷ややかなものに見せる。大人で美人な時計屋さん。その冷ややかな美しさと視線は、女王様を思い出させる。女王様に見つめられているみたいだ。
そんな時計屋さんの口から出たのは、私が予想もしない言葉。
「千、四百年を?」
耳を疑う。けれど隣にいるディーとダムも、私の髪を編みながら楽しそうに歌っている。
「ふ、可笑しな顔になっているぞ」
「レデイへの礼儀をお忘れですか王子? 女王様への報告を」
「訂正しよう。可愛らしい顔を歪ませてどうしたのだ」
ダムとディーが、その様子を見て笑い転げる。訂正はともかく、王子様の言葉への動揺が消えなかった。
「覚悟は出来ているのだろう?」
私の覚悟を問うように笑うダイヤの王子様。挑発的に発せられた言葉は、私の鼓膜を揺さぶった。
「千四百年前へは時計屋に導かせる」
「時計屋さんは」
「時間を操ることが」
「出来るんだ」
『暗黒の魔女。私は貴女に負けない。仲間を、世界を誰一人貴女の思い通りになんてさせない』
『白ウサギも黒ウサギも私は選ばない。二人を消したりなんてしない』
なのに私はここで諦めるの?
思ったはず。呪いを解く方法が分からなくても、魔女の予言が真実であっても。
「諦めたくない」
諦めたくない。そして諦めたくないって叫んだ私に、チェシャ猫は勇気をくれた。
『うん、諦めないでアリス。君なら必ず呪いを解けるから』
腕に、足に、力を込めて立ち上がる。視界は元の高さに戻ったはずなのに、数メートル上の位置にいる王子様と同じ目線に立てた気がした。王子様のダイヤの虹彩の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「私、呪いを解きます。諦めたくない。覚悟はあります」
此処に来る前から決めていた。
「ほぅ」
王子様は満足げに口角を上げる。私と変わらない年に見える、その外見からは想像出来ない、大人びた妖しい笑み。
「ならば力を貸そう。俺様は不思議の国の王。魔女に子供の姿にされ、愛する女王と引き離された悲劇のハートの王。千四百年、愛する妻との別居にもそろそろ煮を切らしていたところだ」
ダイヤの王子様の返答に、言葉を失った。
「俺様がお前に与えるのは情報と俺様の力。力といっても貸すだけだ。あくまでも動くのは桃色のアリス、お前だ」
情報と王子様の力。それはつまり王子様は呪いを解くのに協力し、力を貸してくれるということ。予想外の展開に、涙がこぼれそうになる。初めて、私の覚悟が誰かに認められた。
「まず、何が私にできますか」
「お前はまず知らなければならない。千四百年の苦しみと、呪いに打ち勝つ魔法を」
「千四百年の苦しみ? 魔法?」
「千四百年の長い時の間、我々は世界の崩壊の恐怖にさらされ続けた。歴代のアリスはその恐怖をなくす為、全ての責を負い、ウサギを消したその悲しみ、その苦しみが、何を生んだのか、お前は知る必要がある。お前は無知だ。無知は先入観や偏見から自由ではあるが、一方で無知は罪である。お前が無知であるということは、千四百年の苦しみを無下にし、踏みにじるということ」
ダイヤの王子の言葉が胸に刺さる。
「だから、受け継いでこい。アリスとして」
「アリス様にはこれから千四百年を知ってもらいます」
無表情のままで、何を考えているのか分からない。 頭上で丸く纏められた紫色の髪が、彼女の視線をより冷ややかなものに見せる。大人で美人な時計屋さん。その冷ややかな美しさと視線は、女王様を思い出させる。女王様に見つめられているみたいだ。
そんな時計屋さんの口から出たのは、私が予想もしない言葉。
「千、四百年を?」
耳を疑う。けれど隣にいるディーとダムも、私の髪を編みながら楽しそうに歌っている。
「ふ、可笑しな顔になっているぞ」
「レデイへの礼儀をお忘れですか王子? 女王様への報告を」
「訂正しよう。可愛らしい顔を歪ませてどうしたのだ」
ダムとディーが、その様子を見て笑い転げる。訂正はともかく、王子様の言葉への動揺が消えなかった。
「覚悟は出来ているのだろう?」
私の覚悟を問うように笑うダイヤの王子様。挑発的に発せられた言葉は、私の鼓膜を揺さぶった。
「千四百年前へは時計屋に導かせる」
「時計屋さんは」
「時間を操ることが」
「出来るんだ」

