桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~

「「いいよ、案内してあげる」」
 黄色と、赤。二人に連行されるように進むと、二色の奇抜な城が現れる。
 目がチカチカするような黄色と赤に塗られた壁に戸惑いながら、ダイヤと薔薇の装飾が浮かび上がる大きな扉が開くのを待つ。
 右隣にはトゥイドール・ディー。左隣にはチェシャ猫を抱えるトゥイドール・ダム。両方に挟まれた状態で凄く居心地が悪い。毒で弱っているチェシャ猫を置いてなんて逃げ出せないし、逃げ出そうにも二人が許してくれない。
 打開案は見いだせないまま、二人に城の中まで連行されて数分。ここが牢屋でなくて良かったけれど、本当にダイヤの王子様に会うことになるなんて思ってもみなかった。
 双子に嘘をついてここまで連れてきてもらったけど、仮にもハートの王様に私の嘘が通じるかどうかわからない。けれど、やってみなきゃこの先に進めない。
 とにかく今は、チェシャ猫を助けるために私が頑張らなきゃ。逃げるのも大切だけど、まずは解毒が優先。
「ディーは怒られるかな」
「ダムは怒られるかな?」
 クスクス、と私を挟んで笑う双子。ディーの方をチラリと盗み見ると、妖艶な笑みを浮かべたディーとばっちり目が合ってしまった。
「なんで反らすんだよ」
「なんでこっち見てくれないの?」
「わぁ! ご、ごめんなさいっ!」
 同時に顔を覗き込まれ、咄嗟に謝る。
「何に対して」
「謝っているのかな?」
 ニコニコ、ニヤニヤ、私を試しているとしか思えない笑いが間近に迫る。謝ったのに質が悪い。同じ双子でも、白ウサギと黒ウサギとは当然だけれど全く違う。けれどもし、白ウサギと黒ウサギが二人一緒で、消える呪いのこともなければ、もっと違った二人がいたのだろうか。
「そろそろ」
「行かなきゃね」
 あたふたする私を置いてきぼりに、二人が指を鳴らすと、十メートルは越える扉が大きな音を立てて開く。
「さぁ」
「ダイヤの王子様とのご対面」
 開かれた扉の向こうに鎮座する、一人の王子様。その傍らには、奇抜な燕尾服に身を包んだ女性。ディーに背を押され中へと足を踏み入れると、王座に座った彼はダルそうに私へ視線を移す。遠くからでも威圧する、ダイヤの虹彩に思わずドキリとした。
 女王様を思い出させる金髪。頭の上には、小さな王冠が乗せてある。王様の真っ赤なマントよりも、オレンジ色の衣装がとても印象的だった。けれど何より印象的なのは、王子様の若さ。驚くことに、私と歳はそんな変わらないように見えた。女王様と同じくらいの時を生きているはずなのに、歳の取り方がおかしい。
 この人が、ダイヤの王子様。
「お前がアリスか」
「は、はいっ!」
 威圧感のある音色に、緊張は一層に高まる。
 声が裏返った恥ずかしさと緊張でいっぱいの私を見て、ダイヤの王子様はふっと笑う。
「髪色がピンクとは、変わった成りをしてい「王子の方が変わった成りをされていますよ」おい、時計屋」
 王子様の年齢を言ったのか、それともオレンジ色の衣装のことを言ったのかは分からないけど、王子様の発言を遮った『時計屋』と呼ばれた女性は冷たい視線で王子様を一瞥すると、私を見下ろす。王子様は気分を害したのか、イライラと軽く地団駄を踏んでいた。
「城の者が失礼をしたようですね。ハートの城の姫、アリス」
「い、いえっ、大丈夫です」
 改めて謝られると、嘘をついた罪悪感が心を痛める。しかも城の偉そうな立場の人に姫だなんて言われたら、戸惑う他にない。
「そちらの方には、直ぐに解毒剤を与えましょう。それともう一つ。王子、レディへ変わった成りとは失礼ではありませんか?」