「何の」
「目的でだって兄弟」
「そんなの」
「「決まっている」」
目の前に二つの影が落とされる。赤と青、色違いの隊服。城の兵士と似たデザインの服を着た二人はまるでそっくりで、合わせ鏡をしているかのようだった。もしくは、ドッペルゲンガーが現実になってしまったような、分身したような。白ウサギと黒ウサギを連想させる二人は、一つに結んだみつあみを揺らすと、同時にニマリと笑った。
「「ここはダイヤの城の私有地」」
双子の二人は寸分違わない動きで背中合わせになると、両手に持った銃を構えこちらに向ける。オッドアイの二対の瞳と、四つの銃口が私とチェシャ猫を捕らえ、引き金に指を添える。
「つまり」
「それって」
「「我らがダイヤの王子の城」」
「ダイヤの城? 王子?」
微かに聞き覚えのある単語に首を傾げる。どこかで聞いたことがあるダイヤの城、ダイヤの王子。けれど直ぐに思い出すことが出来なくて。思い出す前に双子が喋り出す。
「兄弟の名前はトゥイードル・ダム」
「兄弟の名前はトゥイードル・ディー」
お互いがお互いの紹介を済ますと、引き金を引いた。
「「敬愛する王子の為に」」
「兄弟のテリトリーに入った君たちには」
「死んでもらうからね」
放たれる鉛玉。チェシャ猫が私を抱えたまま上へ飛び退くと、次の瞬間には左右に槍が迫る。不可能な空中での回避。暗黒の魔女とエースとの交戦で、怪我を負ったチェシャ猫が避けられるはずもなく。槍はあっさりと私達を貫いた。
「「わぉ」」
「あれ? 痛みが、こない?」
覚悟した痛みはなく、思い切り力を入れた瞼の力を少しずつ解く。すると、信じられない光景が目に飛び込んでくる。
「体が透けている!」
うっすらと透けた体は下に見える木の葉、黄色いダイヤ形まで繊細に見せる。
「これは、どういうこと?」
穴が出現することや、川の中で息が出来ることより、今まで経験したことの中で一番不可思議だ。
「僕は存在を透明にすることが出来るんだよ」
驚く私に、チェシャ猫はニコリと笑う。意味深なその笑顔の裏は、海ガメ以上ではなくともいつも以上に読めない。最も、私がチェシャ猫の思考を読めたのなんて数えるくらいしかないんだけれど。
「チェシャ猫だからね。身体を消すのは自由自在だよ」
「凄い! でも、どうして今まで能力を使わなかったの?」
こんな便利な能力があるなら、エースとの戦いで怪我を負うこともなかったかもしれないのに。間近で見ているせいか、頬の傷やぼろぼろの衣服が妙に痛々しい。
「切り札は最後まで隠しておくものだよ」
木を伝いながらも、器用に微笑みで返すチェシャ猫。その微笑みはいつもと変わらないはずなのに。
何かに怯えているような、怖いのを我慢しているような、そんな気がした。
私を包む身体が震えているわけでもないのに。心が震えているのが、不思議と伝わってくる。それに直に触れているからだろうか。身体を消してからのチェシャ猫の心臓の鼓動が少し早くなったのが分かる。不満も、不安もチェシャ猫には伝わっているはずなのに、チェシャ猫は何も言ってこない。
私が頼りないから?
だからチェシャ猫は教えてくれないの?
何が怖いの、チェシャ猫。
「困ったな」
「これじゃあ埒があかない」
コソコソ、とわざとらしいやり取りが聞こえてくる。それに気付いた私とチェシャ猫は、同時に視線を絡ませた。
「まだ何かしてくる気だね。どうする? 引っ掻いとくかい?」
「引っ掻くのは、いけないんじゃないかな」
「目的でだって兄弟」
「そんなの」
「「決まっている」」
目の前に二つの影が落とされる。赤と青、色違いの隊服。城の兵士と似たデザインの服を着た二人はまるでそっくりで、合わせ鏡をしているかのようだった。もしくは、ドッペルゲンガーが現実になってしまったような、分身したような。白ウサギと黒ウサギを連想させる二人は、一つに結んだみつあみを揺らすと、同時にニマリと笑った。
「「ここはダイヤの城の私有地」」
双子の二人は寸分違わない動きで背中合わせになると、両手に持った銃を構えこちらに向ける。オッドアイの二対の瞳と、四つの銃口が私とチェシャ猫を捕らえ、引き金に指を添える。
「つまり」
「それって」
「「我らがダイヤの王子の城」」
「ダイヤの城? 王子?」
微かに聞き覚えのある単語に首を傾げる。どこかで聞いたことがあるダイヤの城、ダイヤの王子。けれど直ぐに思い出すことが出来なくて。思い出す前に双子が喋り出す。
「兄弟の名前はトゥイードル・ダム」
「兄弟の名前はトゥイードル・ディー」
お互いがお互いの紹介を済ますと、引き金を引いた。
「「敬愛する王子の為に」」
「兄弟のテリトリーに入った君たちには」
「死んでもらうからね」
放たれる鉛玉。チェシャ猫が私を抱えたまま上へ飛び退くと、次の瞬間には左右に槍が迫る。不可能な空中での回避。暗黒の魔女とエースとの交戦で、怪我を負ったチェシャ猫が避けられるはずもなく。槍はあっさりと私達を貫いた。
「「わぉ」」
「あれ? 痛みが、こない?」
覚悟した痛みはなく、思い切り力を入れた瞼の力を少しずつ解く。すると、信じられない光景が目に飛び込んでくる。
「体が透けている!」
うっすらと透けた体は下に見える木の葉、黄色いダイヤ形まで繊細に見せる。
「これは、どういうこと?」
穴が出現することや、川の中で息が出来ることより、今まで経験したことの中で一番不可思議だ。
「僕は存在を透明にすることが出来るんだよ」
驚く私に、チェシャ猫はニコリと笑う。意味深なその笑顔の裏は、海ガメ以上ではなくともいつも以上に読めない。最も、私がチェシャ猫の思考を読めたのなんて数えるくらいしかないんだけれど。
「チェシャ猫だからね。身体を消すのは自由自在だよ」
「凄い! でも、どうして今まで能力を使わなかったの?」
こんな便利な能力があるなら、エースとの戦いで怪我を負うこともなかったかもしれないのに。間近で見ているせいか、頬の傷やぼろぼろの衣服が妙に痛々しい。
「切り札は最後まで隠しておくものだよ」
木を伝いながらも、器用に微笑みで返すチェシャ猫。その微笑みはいつもと変わらないはずなのに。
何かに怯えているような、怖いのを我慢しているような、そんな気がした。
私を包む身体が震えているわけでもないのに。心が震えているのが、不思議と伝わってくる。それに直に触れているからだろうか。身体を消してからのチェシャ猫の心臓の鼓動が少し早くなったのが分かる。不満も、不安もチェシャ猫には伝わっているはずなのに、チェシャ猫は何も言ってこない。
私が頼りないから?
だからチェシャ猫は教えてくれないの?
何が怖いの、チェシャ猫。
「困ったな」
「これじゃあ埒があかない」
コソコソ、とわざとらしいやり取りが聞こえてくる。それに気付いた私とチェシャ猫は、同時に視線を絡ませた。
「まだ何かしてくる気だね。どうする? 引っ掻いとくかい?」
「引っ掻くのは、いけないんじゃないかな」

