桃色のアリス ~暗黒の魔女とアリスの想い~

1 仲間外れの王様

 身体が揺れる。肌を撫でる風と、耳に入った騒がしさに意識が覚醒し始める。
 何だろう、いつもと違う。 身体をぎゅっとされているような、地に足がついてないような。どちらにしろ、ベッドで寝てないのは確かなようだった。
 そっと目を開けると、視界いっぱいに飛び込んでくる赤。
「わっ! チェシャ猫!」
「起きたのかい?」
 過ぎ去る景色と共に靡く赤髪。チェシャ猫は私を抱えながら、見知らぬ森の中を走っている。黄色とオレンジの、不思議な彩飾の森。ダイヤの形をした葉が特徴的で、別の世界に迷い込んだみたいに思えた。
「っと」
「うわぁ!」
 飛んできた何かを避けるように、チェシャ猫が横へと飛び退く。振り返ると、土に刺さっているのは長い矢。土を抉る鋭い銀、あれが刺さっていたかと思うと背筋が凍った。
 誰かに狙われている。
「私達、トランプ兵から逃げられたんだよね?」
 ジャックさんは、私が必要とするモノの場所に行けるって言っていたけど、此処に本当に私が必要とするものがあるのだろうか。
 もしかして肉体的な強さが必要なのかもしれない。チェシャ猫のような戦闘はすぐにはできないけれど、頑張るしかない。
 意気込みを入れた数秒後、次に飛んできた扇形の武器を見て、早くも気合いは吹き飛ばされる。
「鎌は無理だよ! いやいや矢も無理だけど! 矢と同じスピードで飛んでくる鎌なんて避けられるわけがないよ!」
 いきなり叫んだ私を見てチェシャ猫は不思議そうな顔をする。けどすぐにいつもの笑みに戻ると銃弾を避けながら言い放った。
「アリスは戦う必要ないよ」
 またもやあっさりと考えを見抜かれたようで、恥ずかしさのあまり顔が熱くなる。そうこうしている内にも、襲撃は止むことなく続けられていて、様々な暗器が飛んでくる。
「わ、わわっ、誰がこんな、何の目的で」
 女王様やトランプ兵に狙われるような覚えはあるけど、その他狙われるような覚えはない。すでに女王様の手が回っているんだろうのか。
「クスクス」
「クスクス」
 黄金とオレンジ色の森の中、囁かれた笑い声。次第に笑い声は嘲るようなものに変わり、話声が聞こえてくる。
「誰が」