夕刻に帰宅すると、家には明かりが点いていた。母が帰ったんだ。
中へ入り、そ、と部屋の戸を開けると、母はこちらに背を向け正座をしていた。
そして背中を向けたまま「どちらへ?」と僕に訊ねた。
わざと一時、間を置いた。
母はたまらない、といった様子で振り向くと「西尾さんのところではありませんね?」と険しくその目を怒らせる。
いつもならば否定をしつつなんとか許しを乞おうとするところだが、今日の僕はいつもとはちがう。
無表情で黙る僕に母はかまわず続けた。
「あの子にはたしかに光るものはあるわ。だけどあなたには『さつきさん』という立派な許嫁がおりますでしょう? それなのに他の娘にふらふらと移り気をするなんて……母としてこんなに恥ずかしいことはありません!」
す、と立ち上がると、僕と向かい合った。
叱られている最中だというのに「こんなに背が低かったっけ」などとよそ事を思う。
「西尾さんのことはお忘れなさい」
「いいですね?」と念押しされて、僕は俯いてついに「ふ」と笑った。
また一時の間が空く。
隣の部屋にある年代物の振り子時計の音がやたらと耳についた。カッコチ、カッコチ、
「お母さん」
まっすぐ向いて呼んでみると、母はなぜか少し怯えた顔をした。
「お父さんと、会ってきました」
中へ入り、そ、と部屋の戸を開けると、母はこちらに背を向け正座をしていた。
そして背中を向けたまま「どちらへ?」と僕に訊ねた。
わざと一時、間を置いた。
母はたまらない、といった様子で振り向くと「西尾さんのところではありませんね?」と険しくその目を怒らせる。
いつもならば否定をしつつなんとか許しを乞おうとするところだが、今日の僕はいつもとはちがう。
無表情で黙る僕に母はかまわず続けた。
「あの子にはたしかに光るものはあるわ。だけどあなたには『さつきさん』という立派な許嫁がおりますでしょう? それなのに他の娘にふらふらと移り気をするなんて……母としてこんなに恥ずかしいことはありません!」
す、と立ち上がると、僕と向かい合った。
叱られている最中だというのに「こんなに背が低かったっけ」などとよそ事を思う。
「西尾さんのことはお忘れなさい」
「いいですね?」と念押しされて、僕は俯いてついに「ふ」と笑った。
また一時の間が空く。
隣の部屋にある年代物の振り子時計の音がやたらと耳についた。カッコチ、カッコチ、
「お母さん」
まっすぐ向いて呼んでみると、母はなぜか少し怯えた顔をした。
「お父さんと、会ってきました」
