お抹茶王子にキョーミないですっ!

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 遠い日の記憶。
 まだ小学校にも入ってなかった頃。

 お母さんがなにかの習い事をしてて。
 わたしはいつも付いていってた。


「ここで待っててね」


 言われたそこは小さな和室。
 わたしよりも少し大きい女の子がいた。

 たぶんその子もお母さんを待ってたんだと思う。


「え、ここにホクロがあるの? スズも同じとこにあるよ!」


 初めて話したのは、たぶんそんなこと。

 その子は色が白くって、スラリとした美人さんだった。

 いつも着物を着てるのが大人っぽくてすっごくステキで。整った顔に切りそろえられた黒髪、(あか)い唇。

 まるでお人形さんみたいだなって、幼心に思ったんだ。


 名前は……うーん。なんだったかなぁ。


 その子、はじめは澄ました雰囲気で話しかけづらかったけど、勇気出して話してみたらとっても楽しい子だった。


「おりがみしよ。スズちゃんなに折れる?」

「うーん、ひこうき」

「ひこうき! いい! やろやろ」


 子どもはわたしたちだけだったからわたしたちは自然とどんどん仲良くなったんだ。


「おあーっ! 当たる当たるってば! うはは! やったな! しかえし!」

「うわ、いま見た!? 一回転した!」


 ビュンビュン紙ひこうきを飛ばしてたら、そりゃ障子戸に刺さるよね。


「あ……」と一瞬二人で固まってから、先にくつくつ笑い出したのはその子のほうだった。

 刺さったままの紙ひこうきをすぽっと抜いて「内緒にしとこ」って人差し指を鼻先に立てて小さく笑った。

 それから覗き見大会が始まって「うるさい」って叱られて結局穴はバレたんだけど。


 その子と毎週のように会って遊んだ。

 そうしてわたしたちは姉妹みたいにずっとそのまま大きくなっていくと思ってた。


 だけどある日。


「スズ。お母さん、お仕事に復帰することになったんだ」


 よくわからなくて、へえ。と答えただけだった。

 けど、それはわたしの生活もめまぐるしく変わる大きな出来事だったんだ。


 幼稚園から、保育園へ。お母さんは長く続けていた習い事もあっさり辞めちゃった。


 以来、その子とは会えなくなった。


 小学生になってからも、しばらくはあの美しい着物姿をふいに思い出しては胸がぎゅう、と寂しく痛んだ。


 美人のその子はわたしの憧れだった。

 ずっとその背中を追いかけてたいって思ってたのに。


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