お抹茶王子にキョーミないですっ!

 始まったからと言ってすぐに緊張が取れていくものじゃない。

 袱紗(ふくさ)を取る手が、茶杓(ちゃしゃく)を持つ手が、いつもの感覚とはちがう。

 冷えて、震える。

 息がちゃんとできているか、確認してる余裕なんかない。


 でも、思い出して。さつき先輩と龍崎先輩に細かに教えてもらったあの時間を。

 ほんの僅かだったけど、濃く、充実していたあの時間を。


 道具のひとつひとつを大切に。

 意味のない動きはひとつもない。(ぬぐ)い、清める。相手のために。ゆっくりと、丁寧に、手にして、撫でるようにすべらせて、優しく持ち直して。


 飲み良いお茶を点てましょう。
 心地良く過ごしていただきましょう。

 夏は涼しくなるように。
 冬は暖かくなるように。

 真心を込めて。
 相手を想って。


 さつき先輩に「ちがう」と何度も叱られた『袱紗さばき』。家でも何度も練習した。だから上手くいく。大丈夫。


 うわぁ、いいねぇ。
 なんかすごいね。
 かっこいい。
 きれいだね。
 うん、すごくきれい。


 お客さんたちからそんなヒソヒソ声が聴こえる。

 茶杓(ちゃしゃく)で抹茶を掬い入れ、お湯を注ぐと、いよいよ茶道らしい場面に入る。

 茶せんを手にして茶碗につけ、ササササ、と素早く振って、泡を立てる。


 おおー。という感嘆の声が薄く拡がった。


 出来てる? わたしにも、出来てるのかな。遠く及ばないと思っていた、先輩たちのようなことが。

 出来ていますか? 龍崎先輩。