好きです、先輩。別れてください

「はんちゃんは嘘をつくときに、左手首を触る癖があるんだよ」


「……っ!」




そんなところまで、先輩にはバレていたんだね。私は何かを我慢するときに嘘をついていたけど、そういうときにバレていたのかな…。




「ほんとの理由は、なに?」


「……先輩の負担になりたくないっていう自己満足です」


「負担……?」




深呼吸をする。私は、泣かない。泣くのはひとりのときでいい。


……振った私に、今ここで泣く権利はないから。




「先輩が有名になればなるほど、スキャンダルの危険性も高くなる。……私は自分のせいで先輩に迷惑がかかるのが怖いんです」


「それは……」


「だから私は、私のために別れるって言ってるんです。先輩は何も悪くないから、気にしないでください。……だから───」




涙声になっていたかもしれない。お願い、気づかないで先輩。


ずっと俯いていた顔をあげて、精一杯の笑顔をつくる。




「好きです、先輩。別れてください」


「俺もはんちゃんが好きなんだよ、別れたくな───」


「ごめんなさい、先輩。……さよなら」




背を向けたのは私から。これ以上ここにいたら、絶対に泣いてしまうから。


すでに滲んだ視界で歩く私の耳に届くのは、震えた大好きな人の声。





「絆菜が俺の負担になるわけないのに……!」




たまに"絆菜"って呼んでくれるのがたまらなく好きだった。


最後の最後まで、先輩への好きは更新されていくんだね……



もはや隠せない涙を見せないように、私は一度も振り返らずに家に帰った。