ここで先輩が一瞬フリーズ。
たぶん、他の人だったら気づかない、身近な人だけが気づく表情の変化。
「チケットは……俺を支えてくれた大切な人に渡したんですよ」
「大切な人?ご家族、とかですか?」
「うん、大切な人」
白野さんはそれで納得したっていうか、家族だって思っているのかもしれないけど、違う。
あの言葉は"家族"の部分を否定も肯定もしてないんだ。
そのチケットは、きっと───私が持っているものだ。
「その方は今日は?」
「来てくれてました。すぐに目に入ったので」
「好きな人が目に入る、みたいなのと一緒ですか?」
少し笑ってそう聞いた白野さんに、楓茉くんも笑顔を返した。
「どうだろう。でも来てくれて嬉しいです」
「いいですね〜」
朗らかな雰囲気でその会話は終わり、話はどんどん移り変わっていき、気づけば時間も終わりに近い。
ふたりもそろそろ締めの言葉に移ろうとしてるみたい。
「今日は楽しんでいただけましたか?」
楓茉くんの呼びかけに、会場がざわついた。その反応は、肯定的なものばかり。
みんな、満足そうな笑顔をその顔に浮かべている。
「本日は本当にありがとうございました!『君と未来をもう一度』を、これからもよろしくお願いします!」
「ありがとうございました〜」
ふたりは手を振って、舞台袖に戻っていく。
私たち客側も、手を振りかえしながら見送っていた。
そのとき、楓茉くん───いや、楓茉先輩が、私のほうを見てふわっと笑った。そんな気がした。
たぶん、気のせいでも自惚れでもない。
だって目が合ったもん。先輩は絶対に私のほうを見て笑ってた───


