イケメン刑事(デカ)は ちょい悪美女を囲い込む

5時過ぎに彼はまたやって来て、結花は彼の前に座って話を聞く体勢になった。

「僕はこういうものです」

そう言って渡された名刺には、近くの総合病院の医師榊原幸雄とあった。

「お医者様なんですね。だから消毒薬の匂いがするんですね。先日この先の歩道で私とぶつかりましたよね。お家はあっちの方なんですか?病院は反対方向ですよね」

「やっぱり覚えていたんですか?あの日急いでいたんで、あなたにお詫びもできなくて、スマホ落とされましたよね。傷ついたり壊れたりしていないか気になっていたんです。それでお詫びに食事をご馳走させて頂きたいと思って…」

「とても急いでいらっしゃいましたよね。実は私顔を見たわけではないんです。あの日あなたからエタノールとカイロと火の匂いがしたんです。あなたが行ってしまったすぐ後で、あなたが来た方向から火の手が上がりました。でもあなたの事を何も繋げては考えなかったんです。聞き込みに来た刑事さんにも何も言わなかったんですよ。想ってもみなかったので」

男は刑事というと少し目を見開いて身構えた。

「でも今日またここにいらして、私が対応した時にぶつかった時と同じエタノールとカイロの匂いがしたんです。あなたの体に染みついている匂いですね。きっと、普通の人にはかぎ取れないでしょうが、私すごく鼻が利くんです。スーパースメラーって知ってます。そこまではいかないですが…それにあなたお医者様ではないですね。お医者さまって色んなお薬の匂いや消毒薬ももっとしっかり匂います。あなたからは汚れた水の匂いや洗剤や床を拭くモップの匂いもします。病院でお掃除の担当をしていらっしゃるんじゃないですか?医者というのは噓ですよね」

「どこにもそんな証拠はないだろう。ただぶつかったことを謝罪して食事でもと思っただけなんだ。それを何だ、人を放火犯みたいに…」

「放火犯なんて一度も言ってませんよ。あなたあの日私の後をつけてきたでしょう。そして次の朝早くに私の住むマンションに放火した。怖がらせるためですか?はた迷惑も甚だしいですね」

男は顔をゆがめて結花を睨みつけている。

店にはいつのまにかお客様もスタッフも居なくなっていた。

「私珈琲の匂いがすごくするでしょう?だからこの店の前を通ったり、店に来たことがあるならきっと私の事を知っていたのでしょう。ぶつかった時のこと覚えているかどうか、偵察ですか?」

男は“なんだと”と言って立ち上がって、結花に手を伸ばして腕を掴もうとしたが、カウンターの中に隠れていた刑事と男のすぐ後ろの席にいた圭介が素早く動いて、

「榊原、彼女に手を触れるな。話は全部聞かせてもらった。署迄ご同行願おうか。そうだな蓬莱結花さんに対する傷害未遂で来てもらおう。まあ、朝からしっかり時間があったのでお前の事は調べがついているけどな。家宅捜査できっとエタノールやカイロも出てくるだろうし、老人が一人亡くなっているんだ。しっかり罪を償ってもらうからな」