Thank you ~英語学園の不思議なともだち~

「お~い、thank~。早くしろって、遅刻するぞー」
「ごめんってsorry、今行くから」

 慌てて今日のぶんの教科書を詰め込み、「よしっ!」とバッグをかつぐ。

「行こう、sorry」
「なんで昨日のうちに準備しておかないんだよ」
「あはは、ごめんごめん。ありがとう、待っててくれて」
 扉を開けて待っててくれたsorryにお礼を言って、廊下に出る。

 二人でわいわい言いながら、教室までの道のりを歩く。

「あ、thank! 昨日の実習かっこよかったよ!」
「ほんと? ありがとう」
「thank、これ落としたよー」
「わっ、ありがとう!」
 行きかう生徒たちとの会話を隣で聞いていたsorryは、つくづくと言った。
「お前、ほんとに、息をするみたいにありがとうって言うよな……」
「あはは。だって」
 俺はくるりとsorryのほうを向くと、にぱっと満開、全開で笑ってみせた。
「俺、thank(ありがとう)だからね」


 ここは世界のどこかにある、英単語たちが通う全寮制の学校、Word。
 ここに集まった英単語たちにはそれぞれ少し不思議な――中には少しどころじゃない力とか、あんまり不思議じゃないのもあったりするけど――力があって、学校でその力の使い方とか、自分たちの言葉の由来、綴り、意味なんかについて学ぶんだ。
 俺はthank。俺の力は、「感謝の気持ちを相手に伝える」こと。
 なにそれって思う? でも実は、優しい気持ちって感覚じゃなくて気持ちの問題だから、意外と相手に伝わりにくかったりするんだ。
 だけど俺の力は、目に見えない心の受け渡し。優しい気持ちを、相手の心の中に直接届けられるから、俺が力を使った相手は心が優しくなって、ふわふわするんだって。
 周りがみんな嬉しそうにしてくれるから、大好きな力だ。
 力だけじゃないよ。thankっていうのは「感謝する」とか、「お礼を言う」っていう意味で、俺は自分の名前がけっこう……というより、めちゃくちゃ気に入っている。
 だってそれって英語でも日本語でも、世界中どこの国でも、とびっきり素敵な言葉だ。
 だから俺は自分の名前が好きだし、誇りに思ってるし、日常生活でも積極的に「ありがとう」って言葉を使うようにしてる。してるというか、今はもう癖になっちゃって、無意識に口をついてでるんだけど……。

 そんな俺の隣を歩いてるのが、寮で同室のsorry。彼は俺と違って、あんまり名前――「ごめん」っていうのを口にしない。そんなに自分の名前が好きじゃないみたいだ。
 ちなみにあともう一人、congratulationっていう名前のルームメイトもいるんだけど、彼は常にテンションが高くて、いつも誰より早く起きて、俺たちを待たず部屋を飛び出して先に行ってしまう。でも本当は優しくてちゃんと気遣いができるし、にぎやかで楽しい男子なんだ。
 それに、クラスメートたちもみんな個性豊かでステキな生徒ばっかり!
 そんな環境に囲まれて、俺は日々感謝の気持ちを忘れずに、笑ったり騒いだり、ときには怒ったり、最高に楽しく生活してる。


 ……でも、なんだろう――
 なんだかときどき、何かが足りないような気がするんだ。