誰もいない放課後の放送室――
私は誰もいないことを確認してこっそり中に入った。
校庭ではサッカー部が練習しているはずだけど、この放送室は防音になっていて無音だ。
まるで世界に一人ぼっちになったような気がする。
マイクはもちろんオフになっている。
ラジオのブースみたいでかっこいいな。
声が出せた頃のように。
中学生だった頃、放送部員として話をしていたように。
また、学校で話をしてみたい――
いつもここで、橋田蓮君が話をしているんだ。
彼がいつも座っているだろう椅子を見つめる。
憧れている彼は、ここから放送をしているんだ。
(ほんの少しだけならいいよね)
そう思って私は椅子に腰を下ろした。
椅子に座るだけで、なんだか体がポカポカしてくる。
こんな感情になったことはない。
声を出すことができれば……
私もここで彼と一緒に放送部員として話をしてみたい。
口パクでこっそり一人で放送する真似をしてみた。
【これからお昼の放送を始めます。私は最近ハマっていることがあります。それは近くの公園で四つ葉のクローバーを探すことです。四つ葉のクローバーって……】
ガチャッとドアが開いて視線を動かすと、そこには蓮君が立っていた。
「ここで勝手に何やってんだよ」
【ごめんなさい】
慌てて立ち上がって口を動かすけれど、私は声が出ない。
きっと彼は放送室の横に設置されているリクエストボックスの回収に来たのかもしれない。
その可能性があることを忘れて私は勝手に放送室の中に入っていた。
慌てて弁解しようと思ってスマホにメモを打ち込んでいくが。
「お前さ、外では家族と普通に話してたよな? スマホを持ち込みたいから話せないふりをしてるとか?」
そんなわけがない。
違うと首を左右に振る。ポニーテールが激しく揺れるほど強く否定をした。
「意味わかんないし。なんで声が出ないんだ?」
【それは……】
過去のことを打ち明けるのは苦しい……。
せっかく聞いてくれているのだから伝えるチャンスだよね。
【……】
「何?」
やっぱり今は言えない!
軽蔑されたくないもん……!
【ごめんなさいっ】
「は? ちょい、待てっ!」
頭を深く下げて、放送室を飛び出した。
*
『こんにちは! これからお昼の放送を始めます』
私、牧野はるかは十六歳の高校一年生。
大好きな橋田蓮君の放送を聞いている。
彼は配信アプリでラジオで話しているはずだ。
みんなには言っていないと思うけど、きっとあの声は蓮君の声だと思う。
私も放送部に入って話をしてみたいけれど――
場面緘黙(ばめんかんもく)で、学校や学校の友人とは声を出して会話をすることができない。
周りにいる友達は理解してくれているんだけど……。
「はるか、蓮君の声今日もいい感じだよね」
【うん】
私は口パクで頷いた。
いつも仲良くしてくれる山寺夢子が声をかけてくれた。
高校に入ってからは、みんな優しくて嫌な思いをしたことがないけれど、中学生の時に辛く悲しいことがあって……。
「やっぱり、そのイケボ大好きですって言ってみたらいいんじゃない?」
私は慌てて首を左右に振る。
そんなの恥ずかしすぎて言えるはずがない……。
「顔、真っ赤にして可愛いね~」
【絶対に秘密にして!】
私は特別会話のためにスマホを持つことを許されていて、スマホのメモ機能に字を書いた。
画面を見せると夢子は楽しそうに笑い出す。
「大丈夫だって。告白は自分でしなきゃダメだからね」
声は好きだし、話している内容も大好きで。
しかも私はこっそりWebにポエムをアップしてるんだけど。
そのポエムのことを気に入っていると、自分の配信アプリの中で紹介してくれたことがあった。
嬉しくて飛び上がった!
あのポエムを書いているのは私なんだよ……!
そう言いたいけれど、やっぱり恥ずかしくて言えない。
それに――
この感情が、恋心かどうかは分からないし。
もちろん私は恋愛なんてしたことがない。
でも彼のことはものすごく気になる存在なんだ。
放送室から戻ってきた蓮君が教室に入ってきた。
さらさらとした髪の毛は、染めていないけれどちょっと茶色くて。
瞳の色も茶色くて、綺麗な二重をしている。
背が高くて笑顔が輝いていて。
男の子からも女の子からも人気のある人だ。
一瞬私と目があったけれど、すぐにそらされてしまった。
会話したこともないのにいつも私のことは軽く睨みつけている気がする。
やっぱり勝手に放送室に入っていたから、怪しまれてるよね。
それに私が外で話しているところを見ていたらしい。
わざと学校では話せないふりをしているんだと思われている。
どうにかして理解してもらわなきゃ……
でもどうやって伝えたらいいんだろう。
「橋田君ってさ、あからさまにはるかのこと無視してる感じがするんだけど……。何かあったの?」
【実は、誰もいない放送室に入っちゃって……。いいなと思って口パクで放送するフリをしてたのを見られてね……。怒らせてしまった】
私のスマホの画面を見て夢子は笑い出した。
「そんなの不審者じゃん」
ですよね!
だよね!
憧れている人に嫌われてしまうなんて大ピンチ。
どうにかして、まずは許してもらわなきゃ。
私は誰もいないことを確認してこっそり中に入った。
校庭ではサッカー部が練習しているはずだけど、この放送室は防音になっていて無音だ。
まるで世界に一人ぼっちになったような気がする。
マイクはもちろんオフになっている。
ラジオのブースみたいでかっこいいな。
声が出せた頃のように。
中学生だった頃、放送部員として話をしていたように。
また、学校で話をしてみたい――
いつもここで、橋田蓮君が話をしているんだ。
彼がいつも座っているだろう椅子を見つめる。
憧れている彼は、ここから放送をしているんだ。
(ほんの少しだけならいいよね)
そう思って私は椅子に腰を下ろした。
椅子に座るだけで、なんだか体がポカポカしてくる。
こんな感情になったことはない。
声を出すことができれば……
私もここで彼と一緒に放送部員として話をしてみたい。
口パクでこっそり一人で放送する真似をしてみた。
【これからお昼の放送を始めます。私は最近ハマっていることがあります。それは近くの公園で四つ葉のクローバーを探すことです。四つ葉のクローバーって……】
ガチャッとドアが開いて視線を動かすと、そこには蓮君が立っていた。
「ここで勝手に何やってんだよ」
【ごめんなさい】
慌てて立ち上がって口を動かすけれど、私は声が出ない。
きっと彼は放送室の横に設置されているリクエストボックスの回収に来たのかもしれない。
その可能性があることを忘れて私は勝手に放送室の中に入っていた。
慌てて弁解しようと思ってスマホにメモを打ち込んでいくが。
「お前さ、外では家族と普通に話してたよな? スマホを持ち込みたいから話せないふりをしてるとか?」
そんなわけがない。
違うと首を左右に振る。ポニーテールが激しく揺れるほど強く否定をした。
「意味わかんないし。なんで声が出ないんだ?」
【それは……】
過去のことを打ち明けるのは苦しい……。
せっかく聞いてくれているのだから伝えるチャンスだよね。
【……】
「何?」
やっぱり今は言えない!
軽蔑されたくないもん……!
【ごめんなさいっ】
「は? ちょい、待てっ!」
頭を深く下げて、放送室を飛び出した。
*
『こんにちは! これからお昼の放送を始めます』
私、牧野はるかは十六歳の高校一年生。
大好きな橋田蓮君の放送を聞いている。
彼は配信アプリでラジオで話しているはずだ。
みんなには言っていないと思うけど、きっとあの声は蓮君の声だと思う。
私も放送部に入って話をしてみたいけれど――
場面緘黙(ばめんかんもく)で、学校や学校の友人とは声を出して会話をすることができない。
周りにいる友達は理解してくれているんだけど……。
「はるか、蓮君の声今日もいい感じだよね」
【うん】
私は口パクで頷いた。
いつも仲良くしてくれる山寺夢子が声をかけてくれた。
高校に入ってからは、みんな優しくて嫌な思いをしたことがないけれど、中学生の時に辛く悲しいことがあって……。
「やっぱり、そのイケボ大好きですって言ってみたらいいんじゃない?」
私は慌てて首を左右に振る。
そんなの恥ずかしすぎて言えるはずがない……。
「顔、真っ赤にして可愛いね~」
【絶対に秘密にして!】
私は特別会話のためにスマホを持つことを許されていて、スマホのメモ機能に字を書いた。
画面を見せると夢子は楽しそうに笑い出す。
「大丈夫だって。告白は自分でしなきゃダメだからね」
声は好きだし、話している内容も大好きで。
しかも私はこっそりWebにポエムをアップしてるんだけど。
そのポエムのことを気に入っていると、自分の配信アプリの中で紹介してくれたことがあった。
嬉しくて飛び上がった!
あのポエムを書いているのは私なんだよ……!
そう言いたいけれど、やっぱり恥ずかしくて言えない。
それに――
この感情が、恋心かどうかは分からないし。
もちろん私は恋愛なんてしたことがない。
でも彼のことはものすごく気になる存在なんだ。
放送室から戻ってきた蓮君が教室に入ってきた。
さらさらとした髪の毛は、染めていないけれどちょっと茶色くて。
瞳の色も茶色くて、綺麗な二重をしている。
背が高くて笑顔が輝いていて。
男の子からも女の子からも人気のある人だ。
一瞬私と目があったけれど、すぐにそらされてしまった。
会話したこともないのにいつも私のことは軽く睨みつけている気がする。
やっぱり勝手に放送室に入っていたから、怪しまれてるよね。
それに私が外で話しているところを見ていたらしい。
わざと学校では話せないふりをしているんだと思われている。
どうにかして理解してもらわなきゃ……
でもどうやって伝えたらいいんだろう。
「橋田君ってさ、あからさまにはるかのこと無視してる感じがするんだけど……。何かあったの?」
【実は、誰もいない放送室に入っちゃって……。いいなと思って口パクで放送するフリをしてたのを見られてね……。怒らせてしまった】
私のスマホの画面を見て夢子は笑い出した。
「そんなの不審者じゃん」
ですよね!
だよね!
憧れている人に嫌われてしまうなんて大ピンチ。
どうにかして、まずは許してもらわなきゃ。
