元彼が職場の後輩に!?

「……配属って、異動? どこから?」
「営業企画部。三月末付けで、こっちに」

 三月末。今日は四月一日だ。
 つまり、今日が初日ということになる。

「聞いてないわよ」
「俺も、結城さんがこの部署にいるとは聞いてなかった」

 ――結城さん。

 他人行儀な呼び方に、胸の奥がちくりと痛む。当たり前だ。もう「真帆」と呼ばれる関係じゃない。むしろ名前呼びなんて、してほしくない。

「……そう」

 それだけ言って、私はロッカーに向かおうとした。
 これ以上、ここで話していたくない。周囲の目が気になる。まだ人は少ないけれど、誰が見ているかわからない。

 それでも、背後から朝倉が話しかけてくる。

「安心して。仕事は仕事として、ちゃんとやるつもりだ。変に気を遣わせるつもりはない」

 振り返らずに答える。

「……当たり前でしょ」

 口をついて出た言葉は、自分でも驚くほど冷たかった。その自覚はある。
 嫌味を言いたかったわけじゃない。ただ、それ以外の言葉が見つからなかった。
 朝倉は一瞬だけ黙り、それから小さく息を吐いた。

「真帆は、昔からそういうところ変わらないな」

 心臓が跳ねる。今、名前で――
 突然、振り返りたくなる衝動に駆られたが。私は逃げるように足を速めた。

「朝倉さん。ここ、職場なんで。私語は控えてください。では」

 わざと他人行儀に言い返す。振り返ることはしない。
 背後で、朝倉が小さく笑っている気がした。

「結城さん。了解です」

 その皮肉っぽい言い方に、胸の奥がモヤモヤする。ロッカーにたどり着き、カーディガンを羽織りながら、深呼吸を繰り返した。

(落ち着け。落ち着け、私)

 五年前に終わった話だ。今さら動揺する理由なんて、どこにもない。

 ないはずなのに……