元彼が職場の後輩に!?

 ――最悪だ。

 そう思ったのは、今年に入って何度目だろう。
 満員電車の中で、ヒールを思い切り踏まれた。痛みに顔をしかめた瞬間、バランスを崩して隣の人にぶつかり、手に持っていたコンビニコーヒーが傾く。蓋は閉まっていたはずだった。
 なのに、なぜか私のブラウスには茶色い染みが広がっている。

「あ、すみません……」

 踏んだ側の男性は、謝りながらもスマホから目を離さない。私は無言で頷くしかなかった。怒る気力もない。月曜の朝から体力を消耗したくはないのだ。
 二十九年生きてきて学んだことがある。不運な日は、だいたい連鎖する。

 駅に着いて、早足でオフィスビルに向かう。
 エントランスを抜け、エレベーターホールに着くと、そこには人だかりができていた。

「故障中。本日復旧予定」

 張り紙を見て、思わず天を仰ぐ。編集部は八階だ。
 月曜の朝から階段を駆け上がる。さらに、コーヒーの染みがついたブラウス。最悪の三点セットが揃った。
 せめてもの救いは、予備のカーディガンをロッカーに入れておいたことだ。それを羽織れば、なんとか誤魔化せる。

 息を切らせながら八階に到着し、編集部のドアを開ける。
 まだ始業十五分前。席についている人はまばらだ。ロッカーに向かおうとした。

 その時。

「……久しぶり」

 低くて、落ち着いた、聞き覚えがありすぎる声。
 足が止まる。顔を上げた瞬間、嫌な予感が的中した。

「……どうして、ここに?」

 そこに立っていたのは、五年前に別れた元恋人だった。