要くんのことは好きにならない!

「私たちは、この篁学園中等部で切磋琢磨し、それぞれの目標に向かって歩んでいきたいと思います。新入生代表、伊沢莉乃」

 万雷の拍手を浴びながら、私は壇上を降りていく。

 はぁぁぁ……、緊張したぁ。
 でも、けっこううまくできたかも?

 新入生代表あいさつをするのは、受験勉強をしていたときからの目標だったから、ぶじに終えられてよかったな。

 でも、ここで終わりじゃない。
 私はもっと上を目指さなきゃいけないんだ。

 だって、この篁学園には、『あの人』がいる。
 いつも私の前を行って、はげましてくれたあの人が……。

   *

 勉強が得意だった私は、中学受験のために塾に通っていた。
 篁学園にぜったい合格したくて、塾の授業のあとも自習室に残って勉強していたんだ。

 自習室は一席ずつしきりがついていて、集中できたんだよね。
 でも、模試や塾内のテストでは、なかなか一位になれなくて……。

 受験が近づくにつれて、本当に合格できるか不安になってきちゃったんだ。

 そんなとき、つい自習室の机に『合格したいな……』って書いてしまった。
 うっかり落書きを消さずに帰っちゃったんだけど、次の塾の日、

『一緒にがんばろう』

 って返事がきてたの!
 それから、相手がわからないまま、やりとりが始まった。

 私が塾に行くのは、月水金。自習室ではいつも決まった席に座ってるから、きっと火木土で塾に来てる人。
 書かれた字からすると、ずっと同じ人とやりとりをしてると思う。

 そして、ずっとやりとりを続けるうちに……もしかしたら、相手は宮崎くんなんじゃないかって、私は思うようになっていった。

 宮崎くんは、うちの塾のテストでいつも一位を取っている男の子。
 私と塾の日はちがうから、顔を見たことはないんだけど、塾に貼りだされた成績上位者の順位表で、名前だけは知っていた。

 落書きのやりとりで聞いてみてもよかったんだけど、宮崎くんに勝てたら、篁学園に合格できたらって先延ばししてるうちに、聞くタイミングを失ってしまって……。

 さいわい、宮崎くんも篁学園をめざしてるって聞いていた。

 無事に合格して、春。
 私は新入生代表のあいさつをすることになった。

 つまりそれって、一位を取れたってこと。
 すごくうれしかったんだけど、宮崎くんに勝てたなんて信じられなくて、これはもう、最高のあいさつをしなきゃって!

 ぶじにあいさつをできて、次にすることといえば――。

「宮崎くん、何組なんだろう?」

 同じクラスには、『宮崎要』の名前はなかった。
 たしかめなきゃって思って、ホームルームが終わってから、私は担任の崎山先生を追いかけた。

「崎山先生!」

「おー、伊沢さん。入学式のあいさつ、すごくよかったぞ」

「ありがとうございます」

 振りかえった崎山先生にそう言われて、私は頭を下げる。
 先生にまでほめられるなんて、うれしいな。
 やっぱり、一位ってことに自信を持っていいのかも!

 そう思った瞬間。

「主席のやつが辞退したから急だっただろうけど、立派だったよ」

 ……主席が辞退?
 え、主席って、一位ってことだよね? 私は一位じゃない???

 しかも辞退したってどういうこと!?

 かたまる私に、崎山先生はなにかを察したらしい。

「……もしかして、知らなかった……?」

 崎山先生は、さすがにヤバいと思ったようだ。

「でも伊沢さんは二位だったし、代表に選ばれる資質が十分あるよ」

 だとか、

「篁学園の歴史に残るあいさつだったよ」

 とか言ってくるけど、そんな苦しまぎれの言葉なんて、今の私には届かない。

「主席ってだれだったんですか!?」

 つめ寄る私のいきおいに、崎山先生は気おされたようだった。

 まてよ?
 私が二位ってことは、その上を行く人なんて、一人しかいなくない?

 私のことを、いつもはげましてくれたあの人しか――。

「崎山先生」

 そのとき、うしろから声がかかった。

 振りかえると、一人の男子生徒がいた。

 さらりとした髪に、知的さを感じるアーモンド型の瞳。
 背は私より高くて、人好きのするその表情は、男女問わず人気がありそう。

「あっ、彼だよ!」

 崎山先生の言葉に、私は目を見開いた。

 彼が主席ってこと?
 じゃあ彼が、宮崎くん……?

 彼が私のほうに、歩いてくる。
 まさかこのタイミングで出会うなんて、予想もしてなかった。

 宮崎くんに会えたら、いろんなことを話そうと思ってたのに、頭が真っ白になって、なにも言葉が出てこない。

「伊沢さん、はじめまして。麻木要です。同じクラスになれてうれしいよ」

 …………ん?

 アサギカナメ?
 宮崎くんじゃない???

 え、この人が、主席で代表を辞退して、そして同じクラスの人?
 まさかの事態に、私の頭はぐるぐるして、考えがまとまらない。

「伊沢さん、俺は……」

「だれよあなたーーーー!!!!」

 廊下に私の絶叫がこだました。