ランタンライトヒーローズ

この春から中学3年になる俺は
その日
春休みを有意義に、
つまりはとことん謳歌すべく
悪友(クラスメイト)たちと、
パシフィコ横浜で行われた音楽イベントに
来ていた

春の日差しを通り越して、初夏の陽気
ここ数年、春と秋はほとんどなくて
ある日、突然夏が来る
異常気象と言うよりは、もはやそれが当たり前に
なりつつあって

そんな陽気に誘われ
俺らはさんざ騒ぎまくったそのノリと勢いで
横浜赤レンガ倉庫まで歩くと
適当なキッチンカーの店を見つけ
3段重ねのハンバーガーを買う
それをがっつりと空腹の胃に詰め込むと
更にドリンクで流し込み

「夕飯が食べられなくなるわよ」

いつもならママ…

いや、母さんにブツブツ言われるが
今日はみんなと夕飯を食べてくる
と宣言しているので安心だ

もっとも、今日、母さんは父さん…
いや
オヤジと2人して知人が出演する舞台を見に
出かけているので、
なんの気兼ねもない

まだまだ絶賛、中ニ病を引きずっており
多少親への反抗心はあるものの
父兄参観で訪れた両親を見て
周りがザワつくほどの美形カップルの間に生まれ
イケメン遺伝子を受け継いだ俺

成績、ほどほどに優秀、
趣味、プログラミング、ゲーム
スポーツ、万能

男女ともに、時に親密、時に気軽な
そういう付き合いが出来る友達のいる自分が
好きであり、
特定の彼女こそいないが
エスカレーター式の学校で、
受験のための勉強には縁がなく、
毎日、のほほん、と
もとい、
充実した楽しい学園生活を送っていた

そう
あの、夏休みの出来事が起こるまでは


◇◇◇◇

「なあ、(しゅん)

イベ帰りの京浜東北線で、蒲田始発に乗り変え
座席を一列占領した俺ら
隣に座った将真(しょうま)が小声で話しかけてくる

「…あんだよ」
俺がイベントで配布されたパンフレットを
見ながら、テキトーに返事をすると

「真由美って、誰かと付き合ってんのかな?」

どうやらそれまで他の連中は、
そういった男女間の付き合いについて、こそこそと話をしていたようで

「真由美?いや…」

特にいないんじゃないかと言おうとして、
それより先に将馬の隣にいた宗司が、

「あ、俺付き合ってるやつは知らないけど、真由美が好きなやつは知ってるぜ」

などと得意げに割り込んできた
俺は
おいおい
こういう風に将馬が聞いてきたって事は、
将馬自身が真由美のことを好きで、
場合によっては告っても大丈夫かどうかの確認を暗にしたかったってことだろう、
少しは気を使えよ

などと、内心苦々しく思ったが
当の将馬は

「え、誰誰?」
と、宗司の言葉に食いついた



「B組の野村ってやつだよ、でもまだ付き合ってはいないと思うぜ、って木下が言ってた」

結局、又聞きかよ
その情報確かなのか?

俺は将馬の気持ちを考えて、
思わずそう聞き返しそうになったが
将馬はなんだか納得したようで

「そっか、いや、俺は隼かと思ってて」

とだけ言うと、座席に深く座り直した
俺は
「は、んなわけねーじゃん」

と、返しておいた

真由美は確かにどちらかと言うとかわいい
ルックスの部類に入ると思うし、
割とはっきりものを言うタイプなので、
クラスでも目立つ方の女子、
常に誰かと一緒にいるムードメーカー的存在だ
どうやら将馬が真由美のことを好きなのは
間違いないらしい
それなのに、ライバルが仲の良い俺だと
ちょっと困る
そういったところだろうか
しかし、真由美のようなタイプを好きな男子は
ザラにいるだろうから
ライバルは多いと思うぞ

とは、あまりに余計なおせっかいなので
言わないでおく

誰と誰が付き合ってるとか、
受験に縁がないこともあって、
自分の推し活の自慢話とともに、
必ず上位に来る話題
俺も興味がないわけではないし、
どうすると子供が出来るか
なんてことぐらい知っている

だが中学生同士の交際など
それほど真剣なものであるわけもなく
せいぜいメッセージの交換や、手つなぎデート
と言ったところで、興味本位だったり、
ちょっとだけ大人ぶってみたいだけだったりで、
付き合い始めて、3ヶ月もすれば
また次の相手
そんな程度のふわっとした付き合い
さすがに女子の場合は、年上と付き合っていると、
手をつなぐ止まりでは無いようで
誰と誰は、もうヤってるとか
話題にのぼることはあるが、俺は
その辺の事、あまり詳しく知りたくない

てか、今どきこだわるか?
自分が初めての相手かどうかなんて

もっとも今はスマホを検索すれば、
AIがありとあらゆることを教えてくれるから
中学生 初体験
で、検索すれば経験者の平均年齢はわかるだろう

それが真実かフェイクかは知らんけど

そうやって、友達と遊んでいると
あっという間に短い春休みなど終わってしまい
最後の中学生活が始まる

◇◇◇◇

新学期が始まり、
何よりも地味に俺がうれしいのは
スマホをこれまでよりは、自由に使えるってこと
もちろん今までも一人に一台、持ってはいたが
学校への持ち込みは、原則禁止、
中学生の間は親が管理、
GPS機能から親のチェックが入って、
それこそプライバシーなんて
あったもんじゃない

しかし中3ともなれば、
次へのステップ、何はともあれスマホ
周りにも解禁組が増えてきた

「使いすぎたらすぐわかるんだからね、
あと有料サイトに繋がらないようにパパが
フィルタリングかけてるから!」

まあ、それくらいは仕方ない
父さんはSEを生業(なりわい)としているので、
そんな措置は朝飯前
なんなら自作のGPSアプリを
俺のスマホに勝手にインストールしてくるだろう
母さんは、昔それで父さんと
ケンカになったらしいから
しかも新婚旅行で

事あるごとに、母さんの恨み節
もう10000回は聞かされた

将馬とは、クラスが分かれてしまったが
日頃、授業の補習目的で通っている塾では
同じ教室、普通に顔を合わせるし
付き合いは続いている

1学期がバタバタ、あっという間に終わると
夏休みの後半からは夏期講習で
将馬とは一緒に理系コースを受講予定

そうやって、夏期講習には参加するものの
俺の通っている学校は大学まである私立の附属校
エスカレーター式で内部進学が可能
そのおかげで、さほど悲壮感のない夏休みを
送る事が出来る(もちろん内申点はキープ
しなければならないが)
小学校に上がる前、
いわゆる「お受験」をしたのだが、
あの時は親に言われるまま、訳がわからず
「お行儀よくしていなさい」
母さんに言われ、その通りにした
今となってはプチ感謝している

夏期講習以外にも、学校の宿題はもちろん
林間学校や、海外へのミニ研修
スイミングスクールにテニススクール
夏休みとはいえ、過密スケジュール
暇な日は一日たりとてないのが今時の中学生
勉強は嫌いではないが、
やっぱりなんの気兼ねもいらない
お楽しみは必要だろ?

毎年夏休みになると
親にどこかしら連れて行ってもらうのだが、
それは俺が中3になった今年も続く恒例行事

しかも、この夏の旅行は俺ら家族だけではない

父さんの父さん、つまり俺のおじいちゃんや
おばあちゃんたちも一緒だ
それに遼おじさん一家、俺と仲の良いいとこの
(やまと)も、旅行に参加する

和は今年大学生、三浦家の長男である遼おじさんの息子で、おじいちゃん達と二世帯同居中

あ…、いま、サラッと
おばあちゃん
と言ってしまったが
ここで訂正します
「麗子」さんたちも一緒だ
それに遼おじさん一家

和は何かの拍子にうっかり麗子さんを
「ばあちゃん」
と呼んでしまい
一週間まともに口をきいてもらえなかったらしい
まあたしかに、じいちゃんも
ばあちゃ…麗子さんも、年齢不詳と言うのか
若々しくはあるのだけど

三浦家は、長男の遼おじさん、それに三男の
三浦(けい)、(俺の父さんだが)の他に
次男で海外赴任中の陸おじさんがいる
(かなりのイケメン)
が、今回は残念ながら不参加
奥さんであるCAの穂佳(ほのか)さんを
溺愛していて、和から
陸おじさんが実はバツイチ
と聞いた時には正直ピンとこなかった
正月に一族郎党集まると
毎年俺に「人生」とは、的な哲学を
独特の感性で教えてくれ
それが多少誇張されたものであるため
母さんは時々渋い顔するが
俺だってもう善悪(ぜんあく)の区別はつくし
ちゃんとわきまえているさ

そして今回
陸おじさんの代わりというわけではないが
母さんたちの友人で、家族ぐるみの付き合いを
している早瀬(はやせ)家の人たちも合流
早瀬のおじさんは、オタク、且つ某和菓子屋の
御曹司だが、家業を継ぐ気は毛頭ないらしい
実家がりんご農園営む嫁をもらい
普段は長野でリモートワーク
その早瀬家には3人の子供がいて、
小学校の頃は夏になると、よく遊びに行って
みんなで文字通り、野山、小川を駆け回って
遊んだりした

会うのは久しぶりだが、
皆、個性的な奴らばかり
さぞや賑やかで楽しい旅行になるはずで
俺はワクワクする気持ちを抑えられなかった

◇◇◇◇