恋、ときどき、嵐

………


「はーい、席についてください!」
朝のホームルームを知らせるチャイムが校内に響き、同時にドアがガラガラと音を立てる。
中に入ってきたのは、担任になるであろう男性教師だった。
短髪の快活な印象を与える先生は確か化学の先生だったはずだ。名前はど忘れしてしまったが、周囲から「浜野先生じゃん」と声が飛び交い、あぁ、そうだった。浜野先生だったと思い出した。
浜野先生は、一人ではなかった。
彼の後ろからついてくる一人の生徒に皆の視線が集中した。

「転校生?」

と小声で話す声が聞こえる。
私は転校生かぁと興味無さそうに視線をやる。
が、その“転校生”に私は見覚えがあった。

「え?!」

思わず自分の口を手で押さえ、声が漏れないようにした。

「転校生?!めっちゃカッコいい~」
「でも、不良?金髪だけど」
「校則オッケーだっけ?」
「うちの学校校則緩かったと思う。みんな、自分でちゃんとしましょうって自立を促す校風でしょ?」
「でもさ…金髪って」
「不良かもしれないけど、めちゃくちゃカッコいいね」

ざわつく教室内、教卓の前に立つ浜野先生の隣に立つ彼は、そう…先日出会ったあの金髪の男の子だ。

(あ!転校するって…言ってた?言ってたよね…転校先って、うちの学校なの?!)
髪をぐしゃぐしゃにしながら回想すると、彼の言っていたことと今目の前で起きていることが一致した。
名前は…確か、ちひろ?って言っていたような…。
机の端を睨みつけるように視線をやると、浜野先生が「今日からこのクラスの仲間になる大石千尋君です。みんな仲良くするよーに。あ、じゃあ自己紹介軽くしとく?」とありふれた紹介をした。

「大石千尋です。いろいろあって転校してきました。よろしくお願いします」

(“いろいろあった”って、そのいろいろって私に教えてくれた“喧嘩して退学になった…”ってことじゃないの?)

私は、まだ混乱した頭を携えたまま、彼の方へ視線を向けた。

すると、彼と目が合った。

「あ、この間の」


と大石千尋君がそう言って、にっこり私に笑みを向ける。
その瞬間、クラス中の視線が私に向かう。
まるで接点のなさそうな私と彼に交互に視線が向けられ、さらに教室内がざわついた。

「あー、君たち知り合い?それはよかった。ちょうど、席は隣同士だね。よっし、じゃあ桜井!昼休みに大石に学校内を案内してやってくれ」
目を白黒させた後、私は深呼吸をして頷いた。

「わ、わかりました!」
「良かった良かった。じゃあ、ホームルームを始めます。学級委員長は明日決める予定だ。今週の予定の共有から」

大石千尋君が私の席の隣に、着席した。
彼が顔を向けてきたので、私は当たり障りのない笑みを向け返す。

「この学校の生徒だったんだ。頭いいんだね」
「それは君もね?うちの学校そこそこ偏差値高いよ。不良にしか見えなかったのに」
「ぎりぎり入ったんだよ。でも、ほんと奇遇だね。こんなことってあるんだ」

彼はこの間のように顔も腫れていないし、口の端から血を流していることもない。
その時でも、綺麗な顔をしているとおもったほどだったのに、平常時に戻った彼は驚くほどに顔が整っている。
席が隣だから余計に距離が近いこともあって、余計にそう思うのかもしれない。

「よろしくね」
「うん、よろしく」
そう言うと私は無理やり意識を浜野先生へ向けた。

(…こんなにイケメンと席が隣だと落ち着かないな)

至極当然の感情だと思う。
ホームルームもあっという間に終わり、休憩時間になると、大石千尋君の周囲には人が沢山集まっていた。
主に女子だったが、その中には太陽もいた。太陽は「わからないことがあったら何でも聞いて」と、太陽のようなオーラを漂わせながら、そう言っていた。
何ていい人なんだ!と心の中で手を合わせて、自分の想い人は底抜けに優しい人だと再認識した。
昼休みになり、ひまりと昼食を取ると直ぐに大石千尋君を探した。
先ほどまで席にいたような気がしたのに、気づくといなくなっていた。

「ねぇ、気になってたんだけど…伊吹ってあの転校生と知り合いなの?」
「あー、うん。この間たまたま駅で会ったんだ。金髪でほら、見た目もカッコいいから覚えてたんだ」
喧嘩の場面に出くわした、とは言わなかった。これだけは、何があっても言わない。

「ふぅん、そうなんだ。彼、学校中でもう噂になってるよ?」
「そうなんだ…。そりゃそうだよね。うちの学校にあんな金髪の不良!って感じの見た目の人いないもん。でも、彼、いい人だよ。普通に優しいし、いい人」
「いい人って言えるほど、関わってないでしょう?」

ひまりが可愛らしい声でそう言った。
と、その時、後ろから肩をトントンと叩かれる。
振り返ると、そこには大石千尋君が立っている。