恋、ときどき、嵐



あの日、あの時の出来事はまるで映画のワンシーンのようで、その映画に登場するヒロインになったようで…―。
あの時の強烈な印象は絶対に忘れることなどできない。絶対に。


四月

ついこの間まで桜が満開で連日花見や散歩で訪れる人が多かったはずなのに、あっという間に葉桜へと姿を変えた自宅近くの公園を抜けてから私は参考書を買うためにわざわざ渋谷に向かっていた。
渋谷というと若者が多いイメージがある。だけど、私はああいう人混みがあまり好きではない。呼吸がしにくい感覚に陥るから。

でも、今日は渋谷に向かうことにしている。
理由は“片思い相手”と一緒に買い物をする予定だからだ。その片思い相手というのは小学生のころからずっとずっと私の視界の中心にいた人物だ。

彼の名前は晴野太陽。その名の通り太陽のように明るくていつだって皆の中心にいるような人物だ。
彼に好意を持ったのは幼いころだったけれど、成長した今も私はこの淡い恋心を秘めたまま彼とは友人として付き合っている。
ちなみに日比谷高校へ通っているのも彼がいるからだ。
中学受験をすると聞いて元々学年で常に一番だった彼の背中を追いかけた形である。

『おすすめの参考書教えてほしい』

なんて、そんなの自分で調べろと言われそうな相談内容も彼は嫌な顔一つせずに色々教えてくれて、それでいて『一緒に買いにいこうか?』と、勘違いしてしまいそうになるセリフをくれた。
もちろん私は目を輝かせて頷いた。
ただ春休みに参考書を買いにいく、それだけなのだが私にとっては学校外で好きな人と会うのだからそれはそれはお洒落をして家を出た。

母親からは家を出る前に『何?デート?』といわれるほど、気合が入っている。
山手線渋谷駅を降りて、出口を探しながらも考えることは太陽のことだった。
前髪変になってないかな、靴の先まで気にかけて普段は鞄の奥に眠っている手鏡で何度自分の顔を確認しただろうか。
ハチ公前で待ち合わせだったのだが、40分も前に到着したのでもちろん私の想い人はいない。ここで40分間待っていても良かったのだが、好きな人と二人で会うというシチュエーションを想像するとどうしてもソワソワしてしまい、それを落ち着かせるように周囲を歩くことにした。
交番前を通り過ぎ、ずんずんと進んでいくと路地に出た。
先ほどまでの雰囲気とは一転、陰々晦晦として、閉塞感があるように思った。
自然に進む足の動きが鈍る。

「…戻ろうかな」

そう呟いた時、近くから何か鈍い音が聞こえた。
戻った方が良かったのに、脳内に警告音が鳴り響いているのに、引き寄せられるように私は進む。