また妻帯者を好きになった
また自ら幸せを遠ざける
また金縛りに嵌った私の人生
また身動きがとれない
想いは伝えることなくまた据える
デスクの向かいに座る
優しく柔らかい笑顔を見る度、釣られ笑いに掛かってしまう
綻んで緩む、穏やか陽だまりのような微笑みに会える
重いままの私の足を職場へ運ぶ充足だった
八重歯が覗いて
彼が大きく笑った時に覗く八重咲の歯が小悪魔の仕業にGAPを深め男の柔らかさを一層飾り立てた
優しい牙に噛まれてみたい乳頭が程良く席を立たせた
慣れない仕事、耳障りな上席の声、重たい空気に湿気った心、私の貧弱な腕には古株の切り倒し方は授からない
給湯室で深呼吸しなければいけなかった日も、
ウォータークローゼットで泣くことを断行しなければ生けなかった日も、
昼食では一言も発声しなかった日にも、
丁度此処で勤め始めて優しく面倒を見てくれた同性の先輩がいる、なんでも言ってね、なんて良く看てくれた、いつしか
悪口なんて言っていないのです
私の知らない私の声を悪魔が使い八重歯の妻に唾を吐きかけていた
貴女が頼りでしたのに
教え下手なんて言っていないのです
仕事と対峙する以上に仕事を誰に聞くかに対峙するようになって個空間で爪を噛んだ

デスクに戻るといつもの席にいる、正面通し、いつも
「大丈夫?」
ああ
黄色い八重花が咲いた
男が漏らした弱太陽みたいな黄色い声
窓際の席で私は後髪で陽を受け、彼は光合成に相応しい人間だと納得できた
「はい、大丈夫です」
八重歯は隠したまま少し笑って呉れている
「目。赤い」
白くなっていきたい
「ゴミがさっき入ってしまって、大丈夫です」
彼と重ね白く綿になりたい
「うん」
「はい」
この職場で貴方だけが私のタノシミ
「なんでも言ってね」
「ありがとうございます」
ああ、ナンデモイッテネを合図にエミが拡大する
八重歯の君が開く、赤い瞼で見留めた
鼻姦が抜ける
ああ
悪魔は君なのか、牙は牙のママなのか




