【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?

(メリル、君を愛している)


 どうしようもないほど、君が愛しい。
 そう伝えられたなら、どれだけよかっただろう?
 ずっと側にいたいと――いてほしいと、そんなシンプルで短い言葉を、僕は口にすることができない。

 もどかしくて、情けない。
 けれど、これが僕という人間だ。

『記憶を失った』と嘘を吐いて、少しだけ変われた気がしていたけれど、根本的な部分については微動だにしていない。周囲の人間は騙せても、自分自身を騙すことはできない。


 招待客と挨拶を交わしながら、僕は必死で自分の気持ちに嘘を吐いた。
 苦しくない、辛くない、すべてはメリルのためだ。彼女が幸せになれるなら――


「ウォルター様、踊りませんか?」


 と、メリルが僕に声をかけてきた。
 これが最後になるかもしれない。もう少しメリルと一緒にいられる時間を引き伸ばしたい――そう思いながらも「そうだね」と僕はこたえる。
 僕たちはダンスホールの隅へと移動をした。

 手を取り合い、見つめ合い、音楽が鳴りはじめるときを待つ。いつもならば無言の――けれど、とてつもなく幸せなひととき。だが、今夜はメリルがおもむろに口を開いた。


「先ほど『ウォルター様は夜会が大好きだ』ってお伝えしましたけど……本当は違うんです」

「え?」


 どういうことだろう? 僕はまじまじとメリルを見つめる。


「わたくしなんです。わたくしのほうがずっと、夜会が大好きだったんです」


 メリルはそう言って僕を見上げると、今にも泣き出しそうな顔で笑った。