【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?

「そんなことで悩んでいたのですか?」

「なっ……」


 そんなこと、ではない。カレンにとっては死活問題だ。
 アレクシスはカレンを抱きしめると、ポンポンと頭を撫でた。


「大丈夫ですよ」

「大丈夫じゃないわ。だって……だって私、思い出せないもの。アレクシス殿下のこと。これだけよくしてもらっているのに。だからきっと、私はあなたのカレンではないのだわ」


 幸せだからこそ、ずっと不安だった。


(もしも、彼にとっての『本当のカレン』が現れたら?)


 そのとき、自分はどうなってしまうのだろう?
 アレクシスはカレン以外の女性にはとことん冷たい。あの冷たい眼差しが自分に向いたらと思うと、カレンは怖くてたまらなかった。


(こんな気持ち、知らなかった)


 カレンはずっと、感情を殺して生きてきた。辛いとか悲しいとか苦しいと思うことはなかったし、自分よりも寂しい思いをして生きている人間はたくさんいると言い聞かせてきた。なにがあっても平気だと感じていた。
 けれど本当は、自分の心を守るために自ら麻痺させていただけで、負の感情が蓄積されいたのだと思い知る。


(怖い)


 今が壊れることが怖い。幸せが失われることが怖い。アレクシスがいなくなることがとても怖い。