【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?

『あなたは逃げて』

『嫌です』

『逃げなさい。これは命令よ』

『私はあなたの命令には従いません』


 アレクシスもまた、頑固だった。カレンがどれだけ命令しても絶対にその場を動こうとしなかった。カレンは泣いた。それでも、逃げないという自分の決断を変えようとはしなかった。


『アレクシスにお願いがあるの。……聞いてくれる?』

『内容によります』


 一人で逃げろと言われても聞く気はない――そんなアレクシスの主張に、カレンはこんな時だというのに笑ってしまう。


『違うわ。私のお願い事はもっと利己的で、愚かなものなの』

『一体どんな願い事なんですか? 食事も、ドレスも、なにも受け取ってくださらなかったあなただというのに』


 アレクシスが不服そうに唇を尖らせる。カレンは微笑むと、アレクシスの手をそっと握った。


『――もしも生まれ変わったら、私をあなたのお嫁さんにしてほしいの』


 その瞬間、アレクシスは静かに目を見開く。カレンは涙を流しながら笑顔を浮かべた。