「両国の関係を深めるため、というのは建前です。カレン様はただの人質でした」
でしょうね、とカレンは思う。アレクシスは苦しそうに表情を歪めた。
「隣国がカレン様に用意したのは塔の中にあるとても小さな一室でした。日が当たらない落ち窪んだ部屋で、侍女もおらず、満足に食事もとれず、ドレスも――祖国が贈ってきたものはすべて取り上げられ、カレン様は非常に寂しい生活を送っていました」
当時を思い出しているのだろう。アレクシスは薄っすらと涙ぐんだ。
「けれど、あなたはそんな境遇に泣き言一つ言わず、すべてを淡々と受け入れていらっしゃいました。たった一人で。――この同盟がいつか破棄されるとわかっていたのに」
アレクシスはカレンの手をギュッと握る。カレンは胸が苦しくなった。
「あの、アレクシス殿下は?」
「私はカレン様のお父様が密かに付けた影でした。有事の際に動けるように、側でじっと見守ることが私の仕事です。けれど、私はどうしてもカレン様が見ていられなくて……何度もここから逃げましょうと伝えました。食事も、ドレスも、あなたに必要なものは何でも用意をしました。けれど、カレン様は私の提案にうなずくことも、受け取ることもしてくれませんでした。それどころか『自分に構うな』と命令をなさったんです」
アレクシスが声を震わせる。カレンは「そう……」とつぶやいた。
「――そんなカレン様が、最後に一つだけ私に願い事をしてくださいました」
アレクシスが静かに目をつぶる。彼は大きく深呼吸をした。
『姫様、同盟は破棄されました! 塔にも火が放たれ、すぐにこの部屋にも火の手が回るでしょう』
『そう……』
『今ならまだ間に合います。私と一緒に逃げましょう』
『ダメよ』
カレンの父親である国王はカレンを見捨てることを選んだ。間違いなくカレンが殺されるとわかっていて、それでも同盟を破棄した。だから、自分は助かろうとは思わない――前世のカレンは頑なにアレクシスの手を拒んだ。
でしょうね、とカレンは思う。アレクシスは苦しそうに表情を歪めた。
「隣国がカレン様に用意したのは塔の中にあるとても小さな一室でした。日が当たらない落ち窪んだ部屋で、侍女もおらず、満足に食事もとれず、ドレスも――祖国が贈ってきたものはすべて取り上げられ、カレン様は非常に寂しい生活を送っていました」
当時を思い出しているのだろう。アレクシスは薄っすらと涙ぐんだ。
「けれど、あなたはそんな境遇に泣き言一つ言わず、すべてを淡々と受け入れていらっしゃいました。たった一人で。――この同盟がいつか破棄されるとわかっていたのに」
アレクシスはカレンの手をギュッと握る。カレンは胸が苦しくなった。
「あの、アレクシス殿下は?」
「私はカレン様のお父様が密かに付けた影でした。有事の際に動けるように、側でじっと見守ることが私の仕事です。けれど、私はどうしてもカレン様が見ていられなくて……何度もここから逃げましょうと伝えました。食事も、ドレスも、あなたに必要なものは何でも用意をしました。けれど、カレン様は私の提案にうなずくことも、受け取ることもしてくれませんでした。それどころか『自分に構うな』と命令をなさったんです」
アレクシスが声を震わせる。カレンは「そう……」とつぶやいた。
「――そんなカレン様が、最後に一つだけ私に願い事をしてくださいました」
アレクシスが静かに目をつぶる。彼は大きく深呼吸をした。
『姫様、同盟は破棄されました! 塔にも火が放たれ、すぐにこの部屋にも火の手が回るでしょう』
『そう……』
『今ならまだ間に合います。私と一緒に逃げましょう』
『ダメよ』
カレンの父親である国王はカレンを見捨てることを選んだ。間違いなくカレンが殺されるとわかっていて、それでも同盟を破棄した。だから、自分は助かろうとは思わない――前世のカレンは頑なにアレクシスの手を拒んだ。



