【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?

「カレン様」


 と、誰かがカレンを呼ぶ。
 振り返ると、ひとりの男性が静かに涙を流していた。


(綺麗な人)


 高い位置で結ばれた長い黒髪に、神秘的な光を纏う銀色の瞳、彫りの深い顔立ちに、スラリとした長身の持ち主。男神もかくや、という美しさとオーラを持つ男性だとカレンは感じた。


「あの、どうして私の名前をご存知なのですか?」


 こんな男性、一度会ったら忘れられないだろう。けれど、残念ながらカレンの記憶に彼はいない。覚えていないことに謝罪をしながら、カレンは男性に向かって頭を下げる。


「――会いたかった」

「え?」


 その瞬間、カレンは男性から思いきり抱きしめられていた。当然、周囲は騒然となり、カレン自身も驚き戸惑ってしまう。


「あ、あの?」

「アレクシスです」

「え? アレクシスって……王弟殿下ですか?」


 アレクシスがコクリとうなずく。だとしたら、絶対に初対面だ。こんなふうに抱きしめられるような関係ではない。けれど、オロオロするカレンの耳元でアレクシスが「会いたかった」と何度も何度もささやいている。


「アレクシス殿下、もしかして見つかったのですか?」


 と、誰かが声をかけてきた。アレクシスは顔を上げないまま、何度もうなずく。その瞬間、ワッと小さな歓声が上がった。