【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?

「あなたはガストンニュ領のオーガスト様――ですね」

「だったら何だ? 君には関係ないだろう?」

「ありますよ。アンジュを連れ戻そうとしているのは彼女の力――治癒の力のためなのでしょう?」

「それ以外に何がある?」


 オーガストはダン!と地面を踏み鳴らすと、ワシワシと己の髪を掻き乱す。――表情に全く余裕がない。アンジュはヒッと息を呑んだ。


「『それ以外に何がある?』……よくもそんなひどいことを。ガストンニュ領の噂は聞いてますよ。どんな病気でも治癒できる救世主オーガストの噂も。――しかし、最近では小さなかすり傷一つ治せなくなってしまったそうですね。それなのに、法外な治療費をむしり取っているそうで、裏切られた!詐欺だと人々が騒いでいるのだとか」

「なっ……! 違う、悪いのは俺じゃない! 勝手にいなくなったアンジュだ! アンジュさえ戻ってくればすべて上手くいく! だからこうして、わざわざ連れ戻しに来てやったんだろう!?」


 オーガストはアンジュに向かって声を荒げたが、ややして無理やり笑みを作ると、アンジュの前に跪いた。


「なあ、アンジュ。お前は俺を愛しているだろう? だから戻ってこい。戻ってこいよ!」

「……は?」


 どの口が、そんなふざけたことを言っているのか? 返事をするのもアホらしく、アンジュは眉間にシワを寄せつつ、ふいと顔を背けた。