【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?

「結婚しよう」


 ミゲルがアンジュを抱きしめる。アンジュの瞳に涙が滲んだ。


「だけどあたし、平民で……」

「そんなの関係ないよ。既に父上の許可はもらった。領民たちも、絶対皆祝福してくれる。あとは君の気持ちだけ。アンジュが僕を好きになってくれたら――」

「ようやく見つけた」


 と、ドスの利いた声が背後から響く。振り返ると、そこにはひどくやつれた様子のオーガストが立っていた。かつてのハキハキとしたオーラはなく、目にはくっきりと隈が刻まれている。一気に体重が落ちたのか、頬がこけて顔色まで悪い。


「オーガスト、様?」

「帰るぞ、アンジュ」


 オーガストがアンジュの腕を強く引く。嫌だ、と言うまもなく、ミゲルがオーガストを引き剥がした。


「僕の婚約者に何か?」

「婚約者、だと?」


 オーガストはそう言うと、ハハハと大きく高笑いをした。


「バカなことを言うな。アンジュの力は俺のものだ。一生、俺だけのものだ。そうだろう、アンジュ?」


 ギロリと血走った目で睨みつけられ、アンジュはビクリと体を震わせる。ミゲルはアンジュを背後に隠し、オーガストを鋭く睨み返した。