【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?

 それから、アンジュのもとに毎日たくさんの人が訪れるようになった。長い間病に苦しんでいた人、怪我に苦しんでいた人、医者では治すことが難しい人々が。
 やること自体は故郷にいた時とほとんど変わらない。大きく変わったのは、患者から直接お礼を言ってもらえるようになったことだ。それだけでアンジュはとても嬉しかったが、何より嬉しかったのは、ミゲルの幸せそうな表情を見られることだった。


「皆がアンジュの素晴らしさを知ってくれて、僕はすごく嬉しいんだ」


 自分が褒められているかのように満面の笑みを浮かべるミゲルに、なんだかくすぐったいような気持ちになる。まるでかつての自分を――オーガストが褒められるのを見て喜んでいた自分を見ているかのようで、そこにどんな気持ちが潜んでいるのかを想像してしまって、何だかとても恥ずかしい。


(恋愛はもう、懲り懲りのはずなのに)


 誰かを好きになることは、止めようと思って止められるものではないらしい。もちろん、アンジュがミゲルに好意を抱いているからこそ勝手に期待をしてしまうだけで、ミゲルには全くその気はないのかもしれないけれど。


『アンジュと結婚? バカを言うな。あんな平民と、この俺が結婚するわけがないだろう?』


 ――もしかして、と思うたびに、アンジュの脳裏にオーガストの言葉が冷たく響く。
 そもそも、ミゲルは領主の息子だ。彼とアンジュが一緒になる未来なんて存在しない。オーガストの件で、嫌というほどわかっているはずなのに――。


「今度ね、父上から屋敷をもらうことになったんだ」


 出会ってから数カ月が経ったある時、ミゲルがおもむろにそう話を切り出した。診療所から屋敷への帰り道のことだ。


「よかったですね! それってどんな……」

「君の新しい家にどうかと思って」

「……え?」


 ミゲルがじっとアンジュを見つめる。
 この数カ月間、新しい家を探そうとするアンジュに『このままここにいるといい』と押し留めてきたのは、他ならぬミゲル自身だった。それなのに、ミゲルがもらう新しい家にアンジュをとは――