屋敷に着くと、使用人たちがアンジュを温かく出迎えてくれた。
「旦那様は執務室にいらっしゃいますよ。呼んでまいりましょうか?」
「ううん、あたしが行く。どうせなら驚いた顔が見たいし、喜ばせたいじゃない?」
三年前から何度となく訪れた勝手知ったる屋敷の中を、アンジュは軽い足取りで進んでいく。オーガストの執務室に着くと、タイミングを見計らうため、アンジュは扉にそっと耳を当てた。
「――本当に、アンジュ様の力は凄まじいですね」
と、男性が言うのが聞こえてくる。オーガストの幼馴染の声だ。彼はオーガストの仕事を手伝っており、アンジュともよくやり取りをしているためすぐにわかる。
(あたしの話だ)
もっとよく聞きたい――アンジュはドキドキと胸を高鳴らせつつ、耳を扉に強く押し当てた。
「力は、な。俺にとっては本当に都合のいい女だよ」
(……え?)
アンジュが思わず息を呑む。聞き間違いだろうか? ……いや、自分がオーガストの声を聞き間違えるはずがない。アンジュは自分を落ち着かせるため、必死で深呼吸をした。
「そんなふうに言うなよ。領地がここまで発展したのはアンジュ様のおかげだろう?」
「アンジュのおかげ? 違うよ、全部俺のおかげだ。治癒をしているのがアンジュだなんて、俺たち以外は知らないことだし、あいつの平凡な容姿じゃここまで話題にならなかった。俺だからここまでやれたんだ。まあ、アンジュの能力が開花したのは幸運だったけど」
ハハハ、とオーガストが上機嫌に笑う。あまりのショックに、アンジュは膝から崩れ落ちてしまった。
(オーガスト様がそんなことを思っていたなんて)
信じられない。……信じたくない。
アンジュは涙をこらえながら、ぐっと拳を握った。
「そうだ! 聞いてくれよ! 最近公爵家とも縁ができたんだ。俺は本当に幸運の女神様に愛されているんだと思うよ」
「公爵家と縁? なんだよそれ」
「あちらの末娘を娶ることが決まったんだ。まあ、ここまで領地を発展させたんだ。実績を鑑みれば妥当だけど」
オーガストの高笑いが聞こえてくる。アンジュは思わず耳を覆った。
「だけどお前、アンジュ様は? 結婚の約束をしていたんじゃ……」
「アンジュと結婚? バカを言うな。あんな平民と、この俺が結婚するわけがないだろう?」
アンジュの瞳から涙がポロポロとこぼれ落ちる。胸が張り裂けそうなほど強く痛んだ。
「旦那様は執務室にいらっしゃいますよ。呼んでまいりましょうか?」
「ううん、あたしが行く。どうせなら驚いた顔が見たいし、喜ばせたいじゃない?」
三年前から何度となく訪れた勝手知ったる屋敷の中を、アンジュは軽い足取りで進んでいく。オーガストの執務室に着くと、タイミングを見計らうため、アンジュは扉にそっと耳を当てた。
「――本当に、アンジュ様の力は凄まじいですね」
と、男性が言うのが聞こえてくる。オーガストの幼馴染の声だ。彼はオーガストの仕事を手伝っており、アンジュともよくやり取りをしているためすぐにわかる。
(あたしの話だ)
もっとよく聞きたい――アンジュはドキドキと胸を高鳴らせつつ、耳を扉に強く押し当てた。
「力は、な。俺にとっては本当に都合のいい女だよ」
(……え?)
アンジュが思わず息を呑む。聞き間違いだろうか? ……いや、自分がオーガストの声を聞き間違えるはずがない。アンジュは自分を落ち着かせるため、必死で深呼吸をした。
「そんなふうに言うなよ。領地がここまで発展したのはアンジュ様のおかげだろう?」
「アンジュのおかげ? 違うよ、全部俺のおかげだ。治癒をしているのがアンジュだなんて、俺たち以外は知らないことだし、あいつの平凡な容姿じゃここまで話題にならなかった。俺だからここまでやれたんだ。まあ、アンジュの能力が開花したのは幸運だったけど」
ハハハ、とオーガストが上機嫌に笑う。あまりのショックに、アンジュは膝から崩れ落ちてしまった。
(オーガスト様がそんなことを思っていたなんて)
信じられない。……信じたくない。
アンジュは涙をこらえながら、ぐっと拳を握った。
「そうだ! 聞いてくれよ! 最近公爵家とも縁ができたんだ。俺は本当に幸運の女神様に愛されているんだと思うよ」
「公爵家と縁? なんだよそれ」
「あちらの末娘を娶ることが決まったんだ。まあ、ここまで領地を発展させたんだ。実績を鑑みれば妥当だけど」
オーガストの高笑いが聞こえてくる。アンジュは思わず耳を覆った。
「だけどお前、アンジュ様は? 結婚の約束をしていたんじゃ……」
「アンジュと結婚? バカを言うな。あんな平民と、この俺が結婚するわけがないだろう?」
アンジュの瞳から涙がポロポロとこぼれ落ちる。胸が張り裂けそうなほど強く痛んだ。



