【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?

 アンジュが治癒した人々は皆、オーガストに助けてもらったと勘違いをしていた。……というより、そうなるようにオーガストが仕向けていた、というのが正しい。彼はアンジュに対し、力を使ったと悟られないよう振る舞うことを常に求めていたし、言葉巧みに人々を誘導していたから。


 けれど、アンジュはそれでかまわなかった。オーガストが褒められると、まるで自分のことのように嬉しくなったし、人々を救うたびにオーガストはアンジュに愛を囁いてくれた。


『アンジュ、俺は君を愛している』
『アンジュのおかげで、君と正式に一緒になれる日がまた近づいたよ』
『君は最高だ。俺は君が側にいてくれなければ生きていけない』


 好きな人に愛され、必要とされて、アンジュはとても幸せだった。領地が栄えれば栄えるほどオーガストは喜んでくれるし、自分を大切にしてくれる。結婚の約束だってしてくれたし、彼のために頑張るのは当然のことだ。


(だけど最近は治療の時にしか会いに来てくださらないのよね)


 夕方、診療所には既にオーガストの姿はない。アンジュは大きく伸びをしてからため息を吐く。

 オーガストには領主としての仕事があるし、アンジュにばかり構えないことはわかっている。けれど、事務的なやり取りばかりでは少しだけ寂しくなってしまう。

 以前のように抱きしめてほしいし、頭を撫でて口づけてほしい。……愛していると言ってほしい。それとも、会いたいと思っているのはアンジュだけなのだろうか?


(ううん、そんなことないはずよ)


 あれほどまでに自分を必要としてくれているのだ。きっとオーガストも同じ気持ちだろう。ほんの少しだけでも会いたい――アンジュは急いでオーガストの屋敷へと向かった。