【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?

 ガストンニュ領に行けば病が治る――王国にそんな噂が流れはじめたのは今から三年ほど前のことだ。領主であるオーガストと会話をすれば、どんな大怪我も、不治の病も、たちまち治る。そんな噂を聞きつけた人々がひっきりなしに領地を訪れるため、この三年のうちに、領地はそれまでと比べ物にならないほどの発展を遂げていた。


「オーガスト様は私達の――我が国の救世主ね」


 街の人々が誇らしげにオーガストを褒め称える。そんな様子を、一人の少女が嬉しそうに眺めていた。


「アンジュ、手を貸してくれ」

「あっ、はい! オーガスト様」


 アンジュは急いでオーガストのもとに駆け寄ると、彼がそれまで話をしていた人――患者へと向き直った。


「この男性は心臓が悪いらしいんだ。俺の話を聞きつけて、一カ月もかけてガストンニュ領に来てくれたんだよ」

「まあ、それは……大変だったでしょう?」


 患者の顔色は非常に悪く、長旅の影響もあってかやつれて見える。アンジュは患者の体を支えると、そっと目をつぶった。


「だが、俺のところに来たからにはもう大丈夫だ。すぐによくなるよ」

「本当ですか、救世主様? よかった…本当によかった!」


 患者が瞳を輝かせる。アンジュは表情を変えないよう細心の注意を払いながら、ゆっくりと己の手のひらに力を込めた。