【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?

「……少し寄り道をしてもいいか?」

「ええ、もちろん」


 ユレイヤに許可を取ってから、リヴェルトが御者に声をかける。
 二人が立ち寄ったのは、古い小さな神殿だった。どんな神を祀っているのか、どうしてここに立ち寄ったのかはわからないが、空気が澄んでいて神聖な感じがする。

 リヴェルトはユレイヤと一緒に礼拝堂に入ると、静かに手を合わせ、何かを熱心に祈りはじめた。よほど大事な願いなのだろう。ユレイヤも彼にならって手を合わせる。


(私の願い事)


 なんだろう?と考えた時に、リヴェルトの姿が目に入った。


(――最初から、やり直せたらいいのに)


 こんな冷え切った夫婦ではなく、互いを思いやれる温かな夫婦に。
 姫として、王子妃として扱われたい、敬われたいだなんて贅沢は言わない。ただ、リヴェルトだけはユレイヤを妻として認めてほしい。叶わぬ夢だとわかっていても、そう願わずにはいられなかった。

「……行こう」

「ええ」


 リヴェルトに促され、ユレイヤは馬車に乗り込む。……と、リヴェルトを乗せぬまま、唐突に馬車が走り出した。
 激しい揺れで座席へ頭を打ち付け、ユレイヤの瞳に涙が浮かぶ。


「なっ……! 馬車を止めて!」


 そう叫んだものの、馬車の運転席には人が乗っておらず、馬は暴走する一方だ。進行方向の先には崖が待ち構えており、ユレイヤから血の気が引く。


(嫌……)


 ふと見れば、リヴェルトはユレイヤが馬車に乗り込んだ位置から微動だにせず、冷たい表情でこちらを眺めていた。これは彼が仕組んだことなのだろうか? 事故に見せかけて、ユレイヤを殺したかったのだろうか? それほどまでにユレイヤが邪魔だったのだろうか? ユレイヤはやり直したいと願っていたというのに。


(こんなの、あんまりだわ)


 ユレイヤがギュッと目をつぶる。大きく体が揺れ傾き、ついで浮遊感に襲われた。


(ああ、私死んじゃうのね)


 ガシャーンと馬車が地面に叩きつけられる大きな音とともに、ユレイヤは意識を失った。