【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?

 夜会会場であるお城に到着すると、リーヴェス様はとてもスマートにわたしのことをエスコートしてくれた。これまではお姉様とリーヴェス様が夜会に出発する様子を眺めていたから、なんだかすごく変な気分だ。

 本当はずっと、お姉様が羨ましくてたまらなかった。好きな人と――リーヴェス様と着飾ってどこかに出かけることを、密かに夢見ていた。


(いけない。嬉しいとか思っちゃダメよ)


 リーヴェス様と結婚するのはお姉様なんだもの。――だけど今夜だけ。ほんの少しだけ恋人気分を味わってみたい――そんなことを思う自分を心底嫌悪しつつ、わたしはリーヴェス様と一緒に会場を歩く。

 夜会にほとんど出席してこなかったわたしと違って、リーヴェス様は顔が広く、少し歩くだけで色んな人に声をかけられた。これまで知らなかったリーヴェス様のよそ行きの表情。いつもよりも大人っぽいし、すごくカッコいい。


「こちらの女性は?」


 と、旧知の仲らしい男性から尋ねられる。ドキッとしていたらリーヴェス様はサラリと「婚約者だよ」って返事をした。


「リーヴェス様、まだわたしたちは……」


 というか、内々の婚約だったとはいえ、お姉様との関係を他の人も知っていたんじゃないだろうか?
 けれど、男性は「おめでとう」と朗らかに微笑む。リーヴェス様も嬉しそうにしていて、なんだかむず痒い気分だ。


(いやいや、それじゃダメなんだってば!)


 このままじゃわたしと婚約していると知れ渡ってしまう。そしたらもう後戻りができない。違うって伝えなきゃ――わたしが先程の男性を追いかけようとしたそのときだ。どよどよ、と背後でざわめきが起こった。