【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?

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(ああ、憂鬱だわ)


 ヴェリーヌは扇子で口元を隠しつつ、そっとため息をついた。
 今夜は王家主催の夜会だ。ヴェリーヌは元々招待客の一人であり、参加をしないという選択肢はない。身分柄、社交関係の出事は多いし、夜会へ出席すること自体はそこまで負担に思わない。

 では、いったいなにが憂鬱かというとユーフェミアのことだ。


「ヴェリーヌ様、あちらの侯爵令息をご存知ですか? 年齢的にも家格的にもヴェリーヌ様に釣り合うと思いますの」


 ユーフェミアはそんなことを言いながら、嬉々としてヴェリーヌを連れて回る。先日のお節介――もとい、約束を果たそうとしているのだ。


「あの、ユーフェミア様……お気持ちは嬉しいのですが、やっぱり私」

「遠慮をなさらないで。この機会を逃してはいけませんわ。他でもないヴェリーヌ様のためですもの。今夜、この場で婚約者候補を絞るべきです」

「いえいえ、ユーフェミア様は王太子殿下の婚約者ですし、私のことなど放っておいていただいて大丈夫ですから」


 今夜は王家主催の夜会だから、ユーフェミアにはユーフェミアのすべきことがある。ヴェリーヌに構っている暇などないはずなのだが。


「あら、大事な友人の結婚相手を見つけることほど大切なことはございませんわ。わたくしには既に王太子殿下という素敵な婚約者がおりますし」


 ユーフェミアはそう言ってニコニコと笑う。