乙女ゲームの世界に転生しちゃったんですけど~ヒロインは恋のライバルです!?~

「乃亜。待ってたよ」
 有栖先輩は乃亜を迎えに行き、彼女の手を優しく掴んでエスコートした。
「嬉しいです。でも、どうしたんですか。みんな……」
 有栖先輩に導かれ、室内に入って来た乃亜は、待ち受けていたわたしと目が合うなり顔を強張らせた。
「……どういうことです? なんで中村さんや野々原さんまでここにいるんですか」
「この状況を見てもまだわからないの? 鈍いんだね」
 有栖先輩は乃亜と繋いでいた手を離し、乃亜を見据えた。
「洗脳が解けたってことだよ、一色乃亜。大福が洗いざらい教えてくれた。ここは乙女ゲームの世界で、君はそのヒロインなんだってね。でもぼくは君がヒロインだなんて認めない。大福!」
 有栖先輩が叫ぶと、見えない『力』が迸った。
 空気が震え、由香ちゃんがいる地点から乃亜へ向かってまっすぐに不思議な力が駆け抜けていったのを確かに感じた。
 その『力』が直撃したらしく、乃亜が「きゃあ」と悲鳴を上げる。
 直後、乃亜の左肩の上に、一匹のシマリスが出現した。
「下ぼくめ。よくも裏切りましたね」
 リスは少女のような高い声で言いながら、由香ちゃんの肩を見つめた。
「仕方ありません。相手をしてあげましょう。わたしが神です」
 リスは背筋を伸ばし、後ろの二本足で立った。
「…………ああ」
 幸太くんが片手で口を覆い、震えている。
 思わず手触りを想像してしまうほどの、ふわふわの体毛。
 縞模様の身体に、先がくるんと丸まった尻尾。
 小さな鼻、長く伸びたヒゲ、ぴょこんと立った耳。
 極上の愛らしさを体現したリスが二本足で立ち、丸いつぶらな瞳で見てくるのだから――堪らない。
「……ああああああああ可愛いなんだこの可愛い生き物ありえねええ!!」
 幸太くんは頭を抱えて悶絶した。
「可愛い……」
 陸先輩が呟く。
 虜になっているようだ。表情に出ないのでわかりにくいけれど。